観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

昔『マトリックス』、今『インセプション』。~バーチャルSF映画の10年に想う~


最近でも『ミッション:8ミニッツ』(←超オススメです!)という、
仮想世界を題材にした佳作がありました。
この手の映画の元祖といえば、長らくかの『マトリックス』でしたが、
それを凌駕する久々の横綱級作品が、『インセプション』です。
今は昔のバーチャルSF映画10年史。
僕たちの生活ぶりも、それにリンクするように変ってきました。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.31】

『インセプション』(2010年/米/監督:クリストファー・ノーラン)
★6/10(日) 21:00~23:39 テレビ朝日

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1999年に公開され、バーチャル空間を描く斬新な映像で大ヒットした『マトリックス』。
続編の『リローデッド』→完結編の『レボリューションズ』と進むにつれて、
どんどんどーでもいい映画になってしまいましたが、
第1作だけは紛れもない傑作であることは間違いありません。
キアヌ・リーブス演じるネオのカッコ良さ!
オープニングから驚愕のの世界反転、そしてラスト・カットまで、完璧でした。
完璧だったんだから、欲かいて続編なんて作らなければ良かったのに...。

さて、その約10年後に作られた『インセプション』。
バーチャル空間を描くサイバーSFという意味では、
『マトリックス』的に見えるのですが、
実は真逆の思想を持った映画だと思うのです。

『マトリックス』が外付けサーバ内にデザインされた仮想世界が舞台なのに対して、
『インセプション』は人間自らの脳内の仮想世界(=夢)が舞台。

Googleグラスのような、生身の知覚とバーチャルな知覚が
シームレスに繋がる魔法の機器も既に実現の領域に入っている今。
現実と非現実の境界を描くために、人間そのものの知覚をテーマに選んだ
監督のクリストファー・ノーランは、非常な卓見の持ち主だと思います。

この映画を公開当時に観て、僕はこう思いました。
ネットやゲームなどの仮想世界に引きこもって抜け出せなくなる
(それがネット社会の諸悪の根源のようにメディアは安易に結論づけたがるのですが)
というのは、仮想世界の発展期固有の経過的症状で、
今後はそういう現実VS仮想のような対立的・一方向的な受け入れ方は
どんどん古くなっていくんじゃないかな?と。

思い返せば、当時はツイッターやフェイスブックがどんどん盛り上がってきた頃。
僕もこれらのツールを通じて、
今までだったら絶対に繋がらなかったであろうネット上の友人たちと、
まるで旧知の仲のように『インセプション』の感想をシェアして楽しみました。

また、フェイスブックが起爆剤になって起こったジャスミン革命や、
初音ミクのワールドワイド・ヒットに象徴されるニコ動の一般化など。
方や世界情勢、方やポップ・カルチャーと両極端な事例ではあるけれど、
ネットと現実が相互に作用しあった刺激的な出来事が次から次へと起こっていきました。

そこには、仮想と現実の対立的・一方向的な関係性は皆無。
そして、限りなくリアルでした。

『マトリックス』と『インセプション』のラストの差異。
『マトリックス』が、外付けの仮想世界で無限の可能性への"跳躍"を渇望したのに対し、
『インセプション』は、仮想を否定も肯定もせず、ただ受け入れ、
そして現実への"着水"を求めます。

後のバーチャル世界のヴィジョン化に多大な影響を与えた
ウィリアム・ギブスンの伝説的サイバーパンクSF小説『ニューロマンサー』から四半世紀、
そして"跳躍"を求めた『マトリックス』から10年を経て、
遂にこの象徴的な"着水"に至った事に、僕はとても感動しました。

『インセプション』についてツイートする。いいね!を押し合う。ブログに書き込む。
こうして、コラムに書く。
そうやって、ネット社会が発達しなければきっと出会えなかったはずの人たちと共有する。
仮想的で非現実的なつながりに見えたとしても、僕にとっては紛れもなく、これは「現実」。
『インセプション』を語るのに、これ以上相応しい場所はないのではないでしょうか。

現実VS仮想という旧態から抜け出し、
現実も仮想もひとつのリアルとして認識するようになった世界。
そんな世界を生きる今の僕たちが、
『インセプション』という仮想の未来図にリアルにコミットできる面白さ。
そうした当時ジャストだった感覚ですら、公開から僅か2年の間の環境・技術の変化に伴い、
もの凄いスピードで更新されてきました。

このスピード、この進化。
これから先の世界がどうなっていくのか?ハラハラ・ドキドキ・わくわく、ですね。
将来、『インセプション』を凌ぐヴィジョンを持ったバーチャルSF映画が登場した時、
それはきっと、僕たちがまた新しい世界に足を踏み入れようとしている時だと思います。

さて、監督のクリストファー・ノーランには、この冴えが衰えないうちに、
臨死状態の脳内を描いたコニー・ウィリスの大傑作SF『航路』を是非とも映画化して頂きたい!
(でも最新作は彼によるバットマン3部作完結編なので許しちゃう♪)
などと勝手にお願いしつつ、
今回のコラムはこれでおしまいです。
お読み頂いた方、どうもありがとうございました。
そして、ご自身のフェイスブックでの「いいね!」や
ツイッターでのRTなど、バーチャルなネット上での拡散のほど、どうぞ宜しくお願い致します♪
...というリアルなお願い。m(--)m

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『スパイダーマン2』(2004年/米)
★6/12(火) 深夜1:50~04:00 テレビ朝日

新シリーズの公開も近いスパイダーマン。
現時点でのベストは、何と言ってもこの「2」!
B級ホラーの帝王、まさかのサム・ライミ監督起用の真意ここにあり。
いまいち日本人にはそのカワイさが判らない?キルスティン・ダンストも
カワイく思えちゃうからアラ不思議♪
どメジャーのヒーローアクションをオルタナ映画人が撮るとこうなる、
見事な着地点をご覧あれ。
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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Jin Bonham名義 映画ブログ【アンドロイドは映画館でポップコーンを食べるか?】
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担当アーティスト:KOKIA公式サイト
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