観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

81歳にして現役最高の映画監督の一人、クリント・イーストウッドの映画作りの匠。


世界の映画界最大のイベント、アカデミー賞の季節がやってまいりました。

残念ながら、最新作『J.エドガー』は賞に絡んではいませんが、
クリント・イーストウッドは、4度もアカデミー賞に絡み、
『許されざる者』と『ミリオンダラー・ベイビー』で
2度も作品賞・監督賞のダブル受賞を果たした偉大な監督です。

今回のコラムは、そんなイーストウッド作品の魅力をご紹介したいと思います。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.14】

『目撃』(19977年/米/監督:クリント・イーストウッド)
★1/25(水) 13:25~15:25 テレビ東京

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御年81歳にして、1971年の『恐怖のメロディ』での初監督以来、
40年間に渡って、ほぼ年1作の驚異的なペースを維持したまま
いずれ劣らぬ傑作を発表し続ける偉大な名優・名監督、クリント・イーストウッド。

僕らアラフォー世代にとっては、何と言っても
イーストウッド=『ダーティーハリー』のハリー・キャラハン刑事。
ルパン三世の声優:山田康雄さんの吹替えと共に、
強烈なインパクトを与えました。

ですから、彼が監督?と聞くと意外な感じがしたものですが、
実はもともと監督志望だったんですね。

1971年、41歳の時に『恐怖のメロディ』で初監督を務めた時から、
本当に基礎がしっかりした映画作りの技を見せ、
以来数々の名作で映画史を彩ってくれているのです。

題材も実に豊富で、
西部劇、アクション、ミステリ、サスペンス、戦争、ラブロマンス、ヒューマンドラマ、
果てはジャズの巨匠を描いた音楽ものまで。
あらゆる題材をイーストウッド色にまとめ、いずれも高水準に仕上げる。
その腕前には驚嘆させられます。

イーストウッドの映画作りが素晴らしいのは、
映像主義的な小手先のアイディアや、あざとい演出が一切無く、
オーソドックスと言えばこれほどオーソドックスなものはない、
「これでもか」というくらい堅実・堅牢な演出をしているところ。
ですから、映像スタイル的な「色」「個性」は、実は無かったりします。

では面白くないのか?と言えば、とんでもない。物凄く面白い。
この、「地に両足が着きまくり」のがっちりした映画作りの腕前で、
どんな題材をも見応えのある傑作に仕上げてしまう。
これこそが、イーストウッド映画に独特の、真の「色」と「個性」なのです。

188センチの長身にいぶし銀の重量感。滲み出る優しさや茶目っ気。ブレなど一切無縁。
ご本人のパーソナリティそのものと言った、この「頼れる」感じ!
それがどんな題材の作品にも色濃く感じられ、
まるで立派なお父さんに見守られるような安心感で、
どっぷりと映画の世界に身を預けられる。
ブレまくりで、国政を預けるにはいかにも「頼りない」某国の総理大臣殿に爪の垢を煎じて...
...すみません、話題がそれちゃった(^^;)

さて、本題である先週放映された『目撃』
これは1997年、イーストウッドが65~66歳の「退職年齢」な頃の監督第20作です。

イーストウッドが本作で演じるのは、
大金持ちから金品は盗むが、人殺しは絶対しないやり手の大泥棒、ルーサー・ホイットニー。
この日の夜も、政界の大物ウォルター・サリヴァンの邸宅に忍び込みます。
ところが、家族全員で旅行中の留守宅はずなのに、帰宅してきたサリヴァンの若き後妻。
しかも、連れ添っているのは、サリヴァンが後援者になることで当選を果たした、
時のアメリカ合衆国大統領ではありませんか!
不倫の香りがぷんぷんの2人から身を潜めて様子を伺っていると...

ここから先はネタバレになるので詳しくは触れませんが、
冒頭の30分のサスペンスの密度がとにかく素晴らしい。
大邸宅、隠し金庫、マジックミラー、赤外線スコープ、ペーパーナイフといった
大道具・小道具をふんだんに活かした演出は、正に匠の技です。

ジーン・ハックマン、エド・ハリス、スコット・グレンといった共演陣も豪華。
僕が個人的にツボだったのは、
『24』シリーズで黒人大統領デイビッド・パーマーを演じたデニス・ヘイズバートが、
何と大統領のシークレットサービスを演じていたところ。
こういうお楽しみは、後追いで旧作を追いかける人間の特権ですね♪

映画は、「タテ軸」である政治スキャンダルに、
ルーサーと先立たれた妻との一粒種で、今は立派な弁護士になった娘との関係が
「ヨコ軸」として巧みに織り込まれ、
サスペンスであると同時に親子の再生の物語にもなっています。
そこがいい。

そう。イーストウッドの映画は、例外なく「人」が丁寧に描かれます。
ヒューマンドラマやラブストーリーはもちろん、
アクションやサスペンスでも手を抜きません。

「自然で堅牢・堅実な演出をし、人物をきちんとした輪郭で描く。」

いい映画とは、この2点がきちんと出来ている映画の事。
そう言い換える事も出来るかもしれないと思うと、
どのイーストッド作品も観客を裏切らない、その理由がわかる気がします。

『目撃』では、父娘の関係から「人」を描いていますが、
ここで、先に述べた当時のイーストウッドの実年齢、
ちょうど退職年齢である65~66歳頃、『論語』でいう耳順の年齢が効いてくるんですね。

もう仕事(主人公の場合はドロボーさんですけど^^)も引退時という年齢。
親に似ず立派に成長したけれど、それでも心配で心配でしょうがない一人娘。
自分の仕事のせいでギクシャクし続けている親子関係。

自作の中で「人」を描く上でのリアリズムに
イーストウッドは自らの年齢と風貌を、実に巧みに導入・運用しているのです。

自分が出演する作品もそうでない作品も、両方手掛けるイーストウッドですが、
出演するかしないかの判断は、
実在の自分(ノンフィクション)と物語の登場人物(フィクション)が
巧みに溶け合い、混じり合って、最大限の効果を発揮する時に限っているのでは?

40歳=不惑の年の監督デビュー作『恐怖のメロディ』の深夜ラジオのDJ役に始まり、
アカデミー作『許されざる者』の60歳=耳順の粋に達した西部の元悪党役や
"最後の俳優業"と位置づけた『グラン・トリノ』の70代=従心、でも頑固な退役軍人役まで。

一連の監督&主演作品を俯瞰する時、そう思わずにはいられません。
そうそう、おじいちゃんの宇宙飛行士たちを描いた
『スペース・カウボーイ』も良かったなあ♪

1月28日(土)に公開が始まったばかりの最新作、
レオナルド・ディカプリオ主演の『J.エドガー』。
役者として素晴らしい味を醸し出しはじめたディカプリオの話題の演技も楽しみですが、
もう一度、自作に出演するイーストウッドの姿を観てみたい。
ファンとしては、そんな見果てぬ夢もあったりします。

70歳=従心を説いた『論語』の

【七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず】
 訳:七十になると思うままに振舞ってそれでも道を外れないようになった。

という最後の1文を知ってか知らずか、
『グラン・トリノ』を最後にきっぱり監督業に専念し、
思うままに作って、道を外れない映画作りの境地に達したイーストウッド翁に、
この願いが伝わるといいんだけどなあ。

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『クラッシュ』(2005年/米)
★2/1(水) 22:00~23:54 BS-TBS

今週は骨太のアメリカ映画がもう1本!
イーストウッドのアカデミー作品賞受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』の
脚本担当:ポール・ハギスの初メガホン作にして、
『ミリオンダラー~』の翌年のアカデミー作品賞&脚本賞受賞作の登場です。
図らずも、今週のコラムの題材=イーストウッドの
映画製作における確かなスタッフ審美眼が証明された格好になりますが、
これは紛れもない大傑作です。
あえてこれ以上は何も触れません。これはホントに観ないと死んじゃダメ~!
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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