観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

『ALWAYS 続・三丁目の夕日』、昭和を知る人も知らない人も泣けるその訳は?


現在、最新作『ALWAYS 三丁目の夕日'64』が公開中の大ヒットシリーズ。
先週は、ちょうどその前作にあたる
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』が放映されました。

思えば昭和の時代も、もう24年も昔。
「ウルトラセブン」が誕生した昭和42年生まれの僕も、
人生の中で平成時代の方が長くなってしまいました。

もちろん、昭和の事なんて実体験として知らない多くの方々も、
きっとこの映画で涙を流したことでしょう。
世代を超えた感動を与える、このシリーズの魅力。
今回の<観ずに死ねるか!>は、その秘密を探ってみたいと思います。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.13】

『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年/日/監督:山崎 貴)
★1/20(金) 21:00~23:24 日本テレビ

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まず、監督・脚本・VFXの3役をこなす山崎監督らしい掴みの良さ。
「始め良ければ終わり良し」と言いますが
良い映画というのはオープニングから、わくわくさせてくれるものです。

第1作は、発砲スチロール製の機体をゴムが動力のプロペラで飛ばす、
懐かしい模型飛行機がどこまでも空を舞う素晴らしい導入。
物語の舞台となる三丁目に、そこで暮らす人々の日常に、
一瞬で僕たちを連れて行ってくれました。
一枚の鳥の羽がどこまでも舞うロン・ハワード監督の『フォレスト・ガンプ 一期一会』や
吹き飛ばされた帽子が森の中を転がり続けるコーエン兄弟監督の
『ミラーズ・クロッシング』に勝るとも劣らない、
見事なオープニングが僕は大好きなんです。

そんなオープニング・フェチの僕なので、
先週放映された第2作は、懐かしい登場人物たちとの再会をどのように演出?と期待大!
結果...日本一のVFXアーティストの面目躍如たる抜群のアイディアに、してやられました。
だって、日本が世界に誇るゴ×ラと鈴木オート社長の熱血対決だなんて(^^)

そんな遊び心満載の導入で始まる第2作。
売れない小説家:茶川龍之介と淳之介との絆、それを奪おうとする川渕との軋轢、
そしてヒロミへの思慕の顛末を中心に、
親の事業が失敗し、鈴木オートに預けられることになった
生意気な親戚の女の子:美加と一平の心の触れ合いや、
六ちゃんの初恋相手の登場や、母:トモエさんのかつての思い人など、
おなじみ三丁目の住人たちのキャラクターを一層掘り下げて進んでいきます。

さすがに、第1作のヒロミの指輪のシーンや、
茶川と淳之介の思い溢れるシーンに匹敵する号泣パートはありませんでしたが、
きっちりと泣かせどころは満載。まず大満足の続編なのではないでしょうか?

さて、そうした良い意味での<ベタ>な泣かせどころは、このシリーズの強力なパワー。
でもそれだけでは、これ程のヒット・シリーズにする事は難しいでしょう。

ベタな展開以上に多くの観客を魅了してやまないのは、
貧しくても、人の事を親身に思いやれる温かい優しさ。
いろいろな事があるけれど、目の前にある幸せを慈しみ、
それを守って行った先にはきっといい明日が待っているよ、という心の持ち様。
それを約束する美しい夕日。

そういう、「お金よりも大事なもの」が
何気ない行動や台詞や表情や仕草の隅々に、
ちゃんと込められているからだと思うのです。

だから、あの時代を知る人もそうでない人も根こそぎ束ねて、
「昭和って、いい時代だったんだなあ」という感慨を生ませてしまう。

もちろん現実には、昭和だって良い人ばかりが生きていたわけではありません。
だからこの映画は、リアルではあるけれども、やっぱりファンタジーなんですね。
でも、おとぎの国や大宇宙の冒険や一大スペクタクルを描くのではなく、
最高峰のVFX技術を使い、あの時代に確かに存在しただろう
「人の絆」への郷愁を描こうだなんて、
何だかめちゃめちゃ素敵なファンタジーじゃありませんか?

映画というのは、2時間の「夢」です。
「夢」で観た人に感動を与えるためには、生半可な思い入れでは作れません。

僕は、VFXアーティストとして最高の技術を持つ山崎監督が、
映像"技術"の粋を尽くして語ろうとしたのが、
ギミックではなく、人の"心"だという事に感動します。
この物語がファンタジー/あったかも知れないけれど本当は夢のお話だという事を、
誰よりも一番わかっているのが、やっぱり監督なんですね。

「夢=嘘でもいいから、こんな人の生き方があって欲しい。」

そういう思いは、実際の昭和を少しは知っている僕でも同じ。
何故なら、これは僕が生まれるもっと前の昭和の物語。
昭和生まれの僕ですら「昭和はこうだった」という生き証人にはなりようがない。
「昭和には、こういうところがきっとあったはずだよなあ」という
夢想と郷愁を淡く抱けるに過ぎないんです。

例えば、映画は戦後の日本の復興を背景に描かれますが、
直接的には戦争を描いてはいません。
ですから、

昭和を知っていても、戦争は知らない僕。
平成は知っていても、昭和は知らないあなた。

これは観客として同じ構図なんです。

世代を超えて、もう忘れてしまったけれど・本当は知らないけれど、、
今でもあって欲しいものがある。
それを2時間の「夢」として見せてくれるから、
誰もがこの映画を観て、涙腺が緩んでしまうのではないでしょうか?

知識や実体験の有無に関わらず、誰にも同じ感動を与えてくれるのは
作品が夢/ファンタジーとしていかに自覚的に作られているかという証拠。
その高みを実現するために必要なのは、監督・脚本・VFXの3役をこなせる人物。
その必然性を見事に昇華したシリーズ、
それが『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズだと思います。

最後にひとつだけ。
今回のTV放映では、残念なカット部分がありました。
それは、バンプ・オブ・チキンが手掛けた
感動的な主題歌「グッドラック」が使われるエンドロールです。

これが実に凝った作りになっていて、映画の感動を補完すると同時に、
この夢物語が終わってしまうのが名残惜しくなってしまう秀逸なもの。
TV放映ですから、普段は諦めざるを得ない、いたしかたないカットですが、
この映画だけは英断して流して欲しかったなあ...。

「始め良ければ終わり良し」と冒頭で書きましたけれど、
「終わり良ければ全て良し」という言葉もありますように、
エンディングが素敵な映画もまた良い映画に決まってるんですから♪
レンタルで観ようかなあ、という方はエンドロールもお楽しみに!
第1作のオープニングで、僕たちを「三丁目」の夢の世界に運んでくれた、
あの発砲スチロール製の模型飛行機。
この第2作のエンディングで再登場して飛び去った先に、
現在公開中の『ALWAYS 三丁目の夕日'64』があるなんていう、
ちょっと粋な予告にもなっている気がします。

さあ、みんなも今すぐ劇場へ飛んで行け~♪

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『目撃』(1997年/米)
★1/25(水) 13:25~15:25 テレビ東京

81歳にして衰えることを知らない映画への愛情と旺盛な創作欲。
名優にして名俳優、クリント・イーストウッドの
がっしりとブレのない映画作りは、どの作品でも楽しめます。
そんなイーストウッドが、これまた名優ジーン・ハックマンと組んだ
今から15年ほど前の監督第17作。
大統領がらみの犯罪をも目撃してしまった大泥棒の運命は?
イーストウッド流サスペンスの行方は、死んでも見逃せない!
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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Jin Bonham名義 映画ブログ【アンドロイドは映画館でポップコーンを食べるか?】
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