観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

映画とかけて娯楽と解く、その心は『スティング』!


1年が経つのは早いもんだなあ。そんな気持ちになる年の瀬です。
思えば、映画というのは儚(はかな)い2時間の夢。
人生と同じように、どんなに素敵な物語にもいつか終わりが訪れます。
あっという間に過ぎていく僕たちの人生を、
その儚さゆえに、ほんのひと時の光と影で彩ってくれる。
それが、映画の魅力なんだと思います。

そんな映画ですから、やっぱり一番は胸がわくわく・どきどきする娯楽作!
これに勝るものはありません。

先週は、どこを切っても楽しさ満載の観ずシネ(観ずに死ねるか!シネマ)、
史上最高の娯楽映画『スティング』が放映されました。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.8】

『スティング』(1973年/米/監督:ジョージ・ロイ・ヒル)
★12/8(木) 13:00~15:10 NHK BSプレミアム

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♪タラ・タタン・タタン・タタン~
あの有名なボードビル調のテーマ曲に乗って、
まるで回想シーンのように、最初に登場人物が紹介されるオープニング。
「この楽しい楽しい映画『スティング』は、2時間の夢物語ですよ。」
そう語りかけてくるようで、始まった瞬間から終わってしまうのが寂しくなる。

30年代、不況時代のシカゴを舞台に繰り広げられる、
詐欺師コンビと大物ギャングとの騙しあいの物語は、こうして始まります。

そして、登場人物の紹介が終わり、
"Windy City(風の街)"シカゴ名物の強い風に吹かれてゴミくずが舞う中、
失業者がたむろする30年代のシカゴの路上を写した静止画が、ふっと動き出す。
ああ、なんてさりげなく、
僕たちをあの時代・あの場所にタイムスリップさせてくれるのでしょう。

そんな薄汚れた路上を横移動するカメラが捉える、颯爽とした足取り。
映っているのは、ズボンの裾と靴だけ。
周囲の貧困ぶりと、場違いな仕立ての良いスーツと高級な革靴の対比。
たったそれだけで、うさんくさい羽振りの良さを描いてしまう、その粋。

もう、これだけで。この映画の品(ひん)が伝わってくるではありませんか。

監督はジョージ・ロイ・ヒル。
名作『明日に向かって撃て!』を筆頭に、
60年代後半~70年代前半のアメリカン・ニューシネマ
(=若く新鮮な感性で、それまでのハリウッド大作主義とは異なる
優れた映画を排出したムーブメント)を牽引した名匠です。

そして、その『明日に向かって撃て!』の主役コンビ再び!
引退生活をしていた伝説的詐欺師:ヘンリー・ゴンンドーフ役のポール・ニューマン。
彼と組む若手詐欺師:ジョニー・フッカー役のロバート・レッドフォード。
ネタはわかりきっているのに何度観ても観飽きない秘訣は、
この名優2人の最盛期が放つ、匂い立つような色気以外の何ものでもありません。

また、敵役の大物ギャング:ロネガンを演じたロバート・ショウをはじめ、
誰ひとり欠けても成立しないのでは?と思わせる、
敵・味方の隅々まで魅力的な脇役陣。
冒頭で紹介された、この2時間の夢物語に登場する面々の活躍ぶりは、
まさに夢心地を味あわせてくれるでしょう。

相方の敵(かたき)を討つため、
大物ギャングに一世一代の詐欺を仕掛けるニューマンとレッドフォード。
"コン・ゲーム(騙しあい)"映画ですから、残念ながら筋の紹介はここまで♪
でも、それだけではナンですので、僕の好きなシーンを徒然と書き連ねてみますと...

まず、敵役の大物ギャング、ロバート・ショウ。
初登場シーンは後ろ姿のみ。そこにトラブルを耳打ちする子分。
後始末を命じる瞬間に初めて顔を横に向け、狡猾な面構えが闇に浮かび上がる見事さ。

そして、あのロバート・レッドフォードが、"若造"を演じている新鮮さ。
25分も経って初めて登場するポール・ニューマン、そのファースト・カットの面白さ。

何よりもグッとくるのが、敵討ちを懇願する"若造"の台詞に、
そんな無謀な事を考えるもんじゃない、と初めは諭(さと)していた
百戦錬磨のニューマンが、はっと表情を変えた場面。

"Because I don't know nothing about to kill to kill him."

字幕では「詐欺師としての報復だ。」って意訳されていましたけれど、
本当は「だって、奴をブッ殺そうにも、その殺し方がまるでわからないんだ。」

この一言に、ニューマン演じるベテラン詐欺師は、
生意気で血気盛んな"若造"詐欺師が、根っからのワルじゃないことに気づく。
悪ぶった心のうちの純朴さ・優しさを知る。
その心意気を買って、ひと肌脱いでやる決心をする。
そこに、動き出した回転木馬の陽気で騒がしい音が、ふっ、とかぶさってくる。

くう~、カッコいい♪
次から次へと大小様々な騙しのテクニックが披露されるこの映画に潜む、
何て素敵な一場面でしょう。

騙し騙されの大技・小技に魅了され、役者たちの色香に魅了され。
しかし、この至福の時間も、2時間後には一幕の夢と閉じます。
「映画はやっぱり、娯楽が一番。」という想いを、観る者の胸に残して。

その時、僕は改めて気づくのです。
ああ、この映画は、オープニングのテーマ音楽が始まった瞬間から、
自らの役割を高らかに宣言していたんだな、と。

そう。その曲の名は、「ジ・エンターテナー」

もし、あなたがまだこの『スティング』を観ていなかったなら。
何度観ても胸がわくわく・どきどきする、最高の娯楽映画との出会いが待っています。
是非とも"騙された"と思って観て下さい!

僕が詐欺師じゃないこと、お約束致します♪

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『借りぐらしのアリエッティ』(2010年/日)
★12/16(金) 21:00~23:04 日本テレビ

'53年発表の英児童文学『床下の小人たち』をスタジオジブリがアニメ化。
古い家の床下に隠れて暮らす14歳の小人の少女アリエッティが、
人間の男の子に見つかっちゃったことから...???
監督は、宮崎駿お墨付きのアニメーター:米林宏昌。その手腕やいかに?
宮崎作品以外に興味はあっても、なかなか劇場へは足が向かなかったみなさん。
このテレビ初放映は死んでも観逃さず、一緒に妖精を見つけてみませんか?
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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Jin Bonham名義 映画ブログ【アンドロイドは映画館でポップコーンを食べるか?】
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担当アーティスト:KOKIA公式サイト
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