観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

一粒で二度美味しい、世界が認めた文学と映画のコラボ!


大人になるにつれて、
「クラシックを聴いてみたい」「ジャズを判るようになりたい」
だんだんと、そんな気持ちになってきたりしませんか?
年齢に相応しい知識・教養。
僕などは焦ってキャッチアップしようとしていますが、なかなか追いつけなくて...。

音楽同様、文学や映画のジャンルでも、
世の中には、大人として押さえておきたい古典がてんこ盛り。
でも、いざ手をつけようとすると、どこから入れば良いのやら???

先週は、そんな迷える"子大人"にピッタリの名作が放映されました。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.7】

『羅生門』(1950年/日/監督:黒澤明)
★11/28(月) 22:00~23:30 NHK BSプレミアム

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ヴェネツィア国際映画祭グランプリ受賞作、『羅生門』。
なんてったって芥川龍之介と黒澤明のコラボレーションですから...
う~ん...敷居が高い(^^;)。

かたや国文学の最高峰の一人。その名を冠した芥川賞の元祖たる文豪です。
どのくらい凄いの人なのか?ちょっと想像してみましょう。
例えば、もしあのレコード大賞に元祖がいたら?
その名前は賞の冠、すなわち"レコードさん"になりますね。
つまり、いちミュージシャンではなく、レコードというメディアそのもの。
そう考えると芥川龍之介という人は、いち作家ではなく文学そのもの。
何だか無理やり極まりない例えですが、まあそれくらい凄い、と。

かたや世界のクロサワ。
ちょっと映画の世界を掘り下げて行くと必ず突き当たる、日本映画界の巨峰です。
その凄さを漏れ聞いてはいても、重厚長大なクロサワ・ワールドは何だか近寄り難い。
重い・長い・難しい。そんなイメージはありませんか?

そんな巨匠2人のタッグですから、観る前から腰が引けてしまうのが人情です。

でも、せっかく日本に生まれたんですから。
やっぱり芥川の文学に触れ、黒澤映画を観てから死にたいな、と。
そういう意味で、映画『羅生門』は、一粒で二度美味しい1作なのです。

タイトルは『羅生門』ですが、芥川の小説『羅生門』とは異なり、
映画における羅生門は物語の語り部が雨宿りするいちセットに過ぎません。
(黒澤監督は、プロデューサーに「セットは門ひとつだけ、後はロケで撮る」
と言って油断させ、作ったセットは巨額の製作費がかかったとんでもないシロモノ。
プロデューサーは「クロさんに一杯かつがれた」と悔しがったそう^^)

その豪華絢爛なセットにバケツをひっくり返したような凄まじい雨。
雨宿りのために羅生門の下に集まった3人が語る、とある殺人事件の顛末。
お話の中身は、芥川の傑作短編『藪の中』です。

戦乱の世。人気のない藪の中で繰り広げれらた、
侍とその妻、そして悪名高い盗賊の3人による強姦殺人事件。
真実はひとつなはずなのに、
当事者たちの証言は、何一つ合致するところがありません。
果たしてその真相とは?

映画を観た後、改めて原作を読んでみたところ。
小説『藪の中』は、真相そのものを読者に預けるような結末になっています。
しかし映画『羅生門』で、黒澤明は独自にもうひとつの視点を加え、
芥川の完結しない原作に、ひとつの決着をもたらしていました。

その決着には、偉大な映画監督のコワモテの裏に潜む、
ヒューマニズムの精神が垣間見られます。
この<人間性に対する、決して諦めない信頼の気持ち>こそ、
全作に通じる黒澤映画の核をなしているように思います。

その核に気づいた時、
それまで重厚長大で敷居の高かったクロサワ・ワールドが
人肌の暖かさを伴う、優しいメッセージを放つように思えてくるでしょう。
90分に満たない本作は、ひとつの事件を形を変えながら繰り返し描く構成の妙もあり、
飽きがくることなくスパっと観終える事ができるので、入門にはうってつけ。
その後『用心棒』『椿三十郎』『隠し砦の三悪人』といった娯楽作品で助走をつけて、
いよいよ名作『七人の侍』をご覧になれば、もう立派な映画大人です。
本物だけが持つ素晴らしい味わいを是非ご堪能下さい♪

そして、原作の芥川龍之介。
きっと小中学生の自分に教科書などで触れて以来のご無沙汰の方も多いはず。
では大人になってからの芥川の味わい方は?
僕が考えるオススメのひとつは、<音読>です。

ご存知のように、芥川は代表作の殆んどが短編。
それだけに、一文一文の研ぎ澄ませ方がハンパじゃありません。
これを味わうには<音読>が一番なのです。

とりわけ、初期の傑作群『羅生門』『杜子春 』などは
ラストの1行を音読し終わった瞬間、
そのあまりの完成度の高さに、ため息がこぼれます。
ケータイ小説やライトノベルも、時代を映した鏡らしい旬の面白さがありますが、
黒澤映画同様の、決して風化しない味わいを堪能してみるのもまた格別なんです。

ところで黒澤映画と言えば、ジョージ・ルーカス自らが明かしているように、
『スターウォーズ』は『隠し砦の三悪人』が元ネタだという話は有名ですね。
そのルーカスが製作総指揮をとったインディ・ジョーンズの第一作の冒頭でも、
<太陽の逆光を撮影する>という『羅生門』が果たした世界初の快挙(!)を
スティーブン・スピルバーグは明らかに模倣しています。
『レイダース 失われたアーク』冒頭の森の中の移動シーン、
是非『羅生門』の森の中の移動シーンと見比べて下さい。

長々述べて参りましたが、敷居が高そうな芥川&黒澤、
少しは身近に感じられたでしょうか?

まあ、芥川だって、もともと漱石のお弟子さんだし、
黒澤だって画家になる夢を断念して食べるために映画の世界に入ったわけですから。
天才も巨匠も人の子、そう考えれば怖くないんですけれど。
2人の魅力、このコラムで上手くお伝え出来たかなあ...?
↑"ぼんやりとした不安"

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『スティング』(1973年/米)
★12/8(木) 13:00~15:10 NHK BSプレミアム

ジョージ・ロイ・ヒル監督+ポール・ニューマン&ロバート・レッドフォード。
これで面白くないワケがない!
アカデミー作品賞をはじめ、計7部門のオスカーを受賞した、
コン・ゲーム(騙し合い)映画、史上最高傑作♪
この映画をまだ観た事のないあなたは、本当に幸せ者です。
だってあの痛快なワクワクドキドキが初めて味わえるなんて!
でも観たら幸せすぎてキュン死に(←ちょっと使ってみました^^;)しちゃうかも!?
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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