「イタリア見聞録」
2011年12月22日
今回、ちょっとしたチャンスに恵まれて
イタリアに7日間ほど旅行に行って来ました。
さすがは一度世界を制覇し、しかもカソリックの総本山である国だけあって、
様々な歴史的建造物を多々見ることが出来、それはそれで非常に興味深かったのですが、
その手の話題は巷にあふれる優秀なガイドブックにお任せして、
私個人が感じたイタリアについてちょっと書き綴ってみたいと思います。
「イタリアを代表する建築物ピサの斜塔」
労働は原罪の償い?
神は土のかたまりから自分の姿に似せてアダムという男を創り出し、
そしてその肋骨からイブという女を創り出しました。
その二人が住んでいたのが楽園。
食べ物に不自由することもなく、様々に思い悩むこともない素晴らしい地でしたが、
あるとき悪魔の化身である蛇にそそのかされたアダムとイブは
禁断の木の実を食べてしまい、その罪により楽園を追放されます。
のみならず、その贖罪のために、男は働くことを義務付けられ、
女は子供を産むという仕事を課されることとなります。
従って「労働」という行為は人間の原罪を償うためのものであり、
喜ばしいモノではないというのが彼の地の人々の根底に流れる思想です。
日本人の様に、労働そのものが人生の目的であり、
労働を通じてこそ人間は向上するのだという考えはイタリア人には全くありません。
日本では「お客様は神様」として、様々に細かいサービスを提供するのが当たり前ですが、
イタリアでは神は唯一絶対の至高の存在であり、
人間は皆もとは土塊から出来た存在として「平等」なのです。
故にサービスを受けた時には、その対価としてチップを渡すという習慣が出来たという訳です。
日常のほんのちょっとした習慣の違いも、実は根深い思想の違いから来ているんですね。
「カソリックの総本山、ヴァチカンの象徴、サン・ピエトロ大聖堂」
南北問題
イタリアはごくおおざっぱに言ってしまうと、ローマで北と南に分けられるそうです。
商業の中心地ミラノを中心とする「北」では「南はお荷物。
俺たちの経済力で本来は『北アフリカ』であるはずの南を養ってやってるんだ」
という自負があり、
ナポリやアマルフィ、シチリアなど風光明媚な地を数多く抱える「南」は
「北は働き過ぎ。大事な人生の時間を仕事なんかに費やしてどうする」と反論するそうです。
「ミラノ駅前にあるオブジェ。針と糸とでミラノの人間の勤勉さを表しています」」
ゲルマン民族の色の濃い「北」の地域は勤勉な人々に支えられ、
高度に産業化していますが、享楽的な「南」地域は農業と観光業くらいしか産業がありません。
「北」の失業率7%に対し「南」の失業率は20%(国全体では13%)。
国もこの格差解消のために、南の地域に工場を建設する企業に対しては
補助金を出すなどの政策をずいぶんと長く続けているそうですが
なかなか効果は上がっていないようです。
なにせ、上述したような気質を色濃く受け継いでいるのは
ラテン系の血の濃い南の方ですから。
今回、私はミラノ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ローマ、ナポリと回ったのですが
北の街(ミラノ)が整然としていたのに対し、南の街(ナポリ)は
アフリカからの移民や難民も多く、物乞いが徘徊し、繁華街はゴミだらけという有様。
観光するのを躊躇してしまうほど危険な匂いがプンプンと漂っていました。
「ナポリの駅前広場にたむろする職のない難民たち」
中国系の進出
ローマでトレヴィの泉へと向かう道すがら、
現地のガイドさんがため息まじりに話してくれました。
「最近、この辺の目抜き通りの店は、すべて中国系に乗っ取られているんですよ。
彼らは格安の中国産製品を大量に持ち込んで、地元の商店よりも安く売るから
どんどん勢力が拡大しているんです。この辺で売っているものはTシャツにせよ陶器にせよ
『ITALY』なんて書いてあっても全部『Made in China』ですよ。」
「北」のイタリア人がいかに勤勉だと言っても、
それは国内での相対的なオハナシに過ぎません。
朝出勤したら、まず近所の行きつけの「Bar(バールと読みます。
日本で言うところの酒だけをあつかうバーではなく、
喫茶店と酒場の中間ってなイメージの業態です)」に行って
ゆったりとエスプレッソを飲み、1時間以上かけてたっぷりと昼食を摂り、
その後シエスタしてから仕事に戻り、就業時間前には早々に帰る準備をするような民族が、
勤勉さと物量では世界一の中国人に勝てる訳はありません。
最近ではローマの中心地にあるテルミナ駅の近くにチャイナタウンが出現したそうです。
私がローマで泊まったホテルはこのテルミナ駅近くにあったのですが、
なるほど東洋系の顔立ちをした人間は多かったし、
あちこちに漢字で書かれた看板が見られました。
そのうち「Made in China」の土産物が
ローマの市場を席巻してしまう日が来るのかもしれません。
取材:江良与一
コラムニスト:ニュース/取材編集者