観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

1995年と2012年の奇妙なシンクロニシティ~『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』雑感~


95年に放映開始され、一大ブームを巻き起こしたアニメの
最新デジタル・リニューアル版。
難解と言われたオリジナル・アニメが全然難しくも何ともなく理解でき(たつもり)、
しかもガンダム以降の同系列アニメにほとんど詳しくない僕(45歳・男)が
改めて見直したらどう思うのか?
自分自身の実験もかねて観てみます!
「ヤシマ作戦?」それ何だったっけ?←すでに周回遅れ...。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.43】

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年/日/監督:庵野秀明(総監督)摩砂雪、鶴巻和哉)
★11/9(金) 21:00~22:54 日本テレビ

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祝!最新作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』も大ヒット。

元々が1995年放映開始のTVアニメですから、今から17年も前がスタート。

昭和に生まれ、リアルタイム世代以外にもその人気が受け継がれている
『ルパン三世』『機動戦士ガンダム』といった名作が居並ぶアニメの殿堂に、
いまや平成代表として、エヴァンゲリオンは堂々とその名を連ねています。

私事ですが、ウチの長男は17歳の高2。つまりエヴァと同い年。
当然ながら、オリジナル放映でブームになった時の記憶はございません。

でも、彼らの世代以降も、どんどん新たなエヴァ・ファンは増殖しているわけですね。

エヴァンゲリオンは、『ガンダム』にその萌芽があった
<悩める主人公を中心とする"内省的"な戦闘ロボ形式アニメ>を、
画期的に発展させた点で、歴史に残る作品になりました。
制作当時の1995年当時の時代背景も、そこに大きく影響していたと思われます。

その作品が何故2012年にも共鳴するのか?
そこで、エヴァが誕生した17年前の主要な出来事を振り返ってみると...。

1月17日)阪神・淡路大震災
3月20日)地下鉄サリン事件
4月14日)在職25年表彰の国会演説で、石原慎太郎衆議院議員が突如辞職表明
4月22日)公立学校完全週休2日制
4月27日)殺人事件の公訴時効廃止
7月10日)アウンサンスーチー氏の自宅軟禁解除
8月25日)Windows 95発売
9月4日)沖縄米兵少女暴行事件→10月21日)沖縄県宜野湾市で事件に抗議する県民総決起大会開催
11月27日)新潟県上越市の中学1年生の生徒が、いじめを苦に自殺
12月6日)千葉県香取郡の町立中学校で、中学2年の女子生徒がいじめを苦に自殺。
     会見でのいじめの有無に対して二転三転し、社会問題化。
12月8日)高速増殖原型炉「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故

と、こうなります。ううむ。

震災の復興・石原都知事の突然の辞職と14党乱立の総選挙・ゆとり教育問題・裁判員制度・
ミャンマー民主化・IT社会・沖縄問題・いじめ問題・原発問題...。

今年2012年の状況と、奇妙にシンクロするように思えるのは僕だけでしょうか?

また、この年は日本のCDとレコードの売り上げの中で
最もミリオンヒットを記録したCDが多かった年であり、
同時に、インターネット上に、MP3ファイルが出回り始めた年なのです。
つまり、音楽を聴くという行為に、今につながる決定的なパラダイムシフトが起こる前夜...。

これらの奇妙な連鎖に、
僕らを取り囲んでいる状況は、今も当時も何ら変わっていないのではないか?
そんな思いが頭に浮かびます。

さて、そんな視点から『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の話をすると。
この映画は、1995年のオリジナル作『新世紀エヴァンゲリオン』のリビルド(再構築)作品。
全4部作を予定していることになっています。(今公開中の最新作は、第3部)

新しいキャラクターや結末を用意するとのことですが、
要するに、焼き直しをしているわけですね。

音楽の世界で言えば、自分の昔の曲を今のサウンドで録り直す、セルフカバーみたいなものです。

絵が綺麗になったのは、レコーディングの技術が向上したみたいなものだなあ、とか。
新しいキャラや結末っていうのは、アレンジに変化が加わったのに近いのかな?とか。
稼業柄つい考えてしまいました。

考えてみれば、音楽はひとつの曲がセルフカバーを含め、いろいろな形に姿が変わります。
でも、そういうことはアニメや映画の世界ではあまり見かけません。
映画でリメイクはよくありますが、特にセルフカバーすなわち同じ監督が作り直すのは珍しい。

『犬神家の一族』を、市川崑監督は1976年と2006年の二度作っていますが、
これなどがエヴァンゲリオンのリビルドに近いかもしれません。
こういうケースは稀ですね。

逡巡し、煮え切らないまま戦う主人公:碇シンジと、彼を取り囲む女性キャラの造形に
1995年当時を生きる人々は共鳴し、オタク市場の枠を超えたブームを生み出しましました。

既に第3次ブームと言われる現在。
オリジナル当時には生まれてもいなかった世代も含めて、その熱狂が続いているのは、
ファンが共鳴しつづけてきたエヴァのコア部分が、いまだその有効性を失っていないから。

言い換えるなら。
僕らをとりまく状況が17年の間に大きく変わってはいないから、
エヴァに共鳴する人々は、今日も増殖しつづけている。

だからこそ、新旧ののエヴァ・ファンにとってリビルド=再構築は必然である、と。
状況は何ら変わらないから、焼き直しにこそ共鳴するコアがあるのだ、と。

上にピックアップした1995年の数々の出来事と2012年のシンクロニシティは、
それを端的に証明していると思うのです。

だとすれば。

新劇場版の最終作で明かされる、新たな結末。
それは、僕たちが迷い込んだ閉塞した状況を、
突破するヴィジョンを予見するものになるのでしょうか?

そこに至ってはじめて、リビルドの真の意味が生まれる。
そう期待しつつ、完結編を待つことにいたしましょう。

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『丹下左膳餘話 百萬両の壷』(1935年/日)
★12/12(水) 21:00~22:45 NHK BSプレミアム

29歳の若さで戦死した山中貞雄監督の、
現在も残っている3本の作品の一つにして最高傑作の誉れ高い名作。
80年近く経っても色褪せない、時代劇版ホームドラマ。
百萬両?の価値のある壷をめぐって、
憎めないキャラ爆発の剣豪:丹下左膳の物語のはじまりはじまり~♪
観ずには死ねない、でも観たら笑い死にする歴史的名作です。
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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担当アーティスト:KOKIA公式サイト
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