観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

T・クルーズとD・ホフマンが難しい役柄を演じきった、 24年前のアカデミー作品賞『レインマン』


今年のアカデミー賞、みなさんはどうご覧になりましたか?
凌ぎあった2本の話題作、
『アーティスト』と『ヒューゴの不思議な発明』は、日本ではこれから続々公開!
『ヒューゴ~』は、ドンぴしゃのタイミング、しかも「映画の日」の3月1日(木)から。
4月7日(土)公開の『アーティスト』も、当初単館系のみの予定が全国80館クラスへ拡大。

時代を捉えた『ソーシャルネットワーク』やヘヴィな『ブラックスワン』の昨年から一転。
まるで原点回帰のように、両者共に「映画」そのものへの愛情を横溢させた2本。
映画ファンにとっては、観るのがとても楽しみですね~♪

さて、先週は24年前のアカデミー作品賞『レインマン』放映されました。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.18】

『レインマン』(1988年/米/監督:バリー・レヴィンソン)
★2/21(火) 22:00~24:15 NHK BSプレミアム 

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若きトム・クルーズと名優ダスティン・ホフマンの共演で
自転車操業の自動車ディーラー若社長の弟と
永らくその存在を知らされずに、施設で養護されていた重度の自閉症患者の兄を描き、
第61回アカデミー賞、第46回ゴールデングローブ賞、第39回ベルリン国際映画祭の
作品賞3冠に輝いた名作『レインマン』。

自営する外国車ディーラーの資金繰りのために、
亡き父の遺産をアテにしたチャーリー(トム・クルーズ)は、
父の遺言で初めて兄・レイモンド(ダスティン・ホフマン)の存在を知ります。
しかも頼みの綱の遺産のほとんどがその兄の手に渡るというとんでもない遺言に、
慌ててレイモンドを探し出すチャーリー。
しかし、施設で出逢ったレイモンドは、重度の自閉症でした...。

「自閉症」という、「脳の障害」による「先天的」な病気について、
人との正常なコミュニケーションがとれない、という表面的な症状だけを見て
「心の障害」による「後天的」な病気だと勘違いしてしまう。

いまだにそんな誤解が多いのですから、
映画が作られた24年も前の時点では、自閉症患者に対する世間の知識は
今と比べて格段に低かったと記憶しています。
その意味でも、この映画が世界に与えたインパクトは大きかったでしょう。

しかし改めて観直してみると、
意外に単純な「お涙頂戴、重病テーマの映画」ではないことに気がつきました。

何とか遺産の半分を「保護者」たる自分の手に入れて、
会社経営を好転させたいチャーリー。
そのために施設からレイモンドを連れ出したクルマの旅は、
2人のコミュニケーション不全がもたらす「ドタバタ珍道中」と言っても良いくらい。
全編に渡って共通するのは、涙のバラードよりも軽快な80sポップスです。

この、変に「お涙頂戴」な流れにしなかったところが監督のエラいところ。
「涙を誘う感動の名作!」と大げさに喧伝するよりも、
ちょっと変わったデコボコ・コンビの珍道中に
主人公たちと同じように困ったり笑ったりしながら、
ふっとした隙間にしみじみとした機微を感じさせてくれる。
『レインマン』は、そんな映画なんです。

一見、兄弟の心の交流を描いているようですが、
病が故に、実はレイモンドはチャーリーとの本質的なコミュニケーションはとれません。
ほんのつかの間、心が通じたと思っても、
ひょんなきっかけでまた元に戻ってしまいます(というか、変わっていません)。
ですから、この映画を牽引するエモーションは「美しい兄弟愛」の類ではありません。
始めは理解不能だった兄の病気について、弟が次第に理解を深めながらも、
本質的なところはどうしても解決できない、一方通行の「もどかしさ」なんですね。

映画は、中盤までの淡々とした珍道中から一転。
チャーリーが幼い頃のおぼろげな記憶に残っていた、
雨男=レインマンの正体がわかる感動的なシーンを分岐点に、
急激ににボルテージが上がっていきます。

その感動シーンでも、兄弟は感動を共有=コミュニケート出来ません。
この「もどかしさ」、この「やるせなさ」。
クライマックスを越えて、やがて訪れるラストでも繰り返されるこの主題に
観客はチャーリー同様に、置き去りにされるのです。

普通に「涙を誘う感動の名作!」を想像させてしまう題材にして、このスタンス。
よくぞこの映画がアカデミー作品賞を取ったものだと思いますが、
それはやはり、当時の「自閉症」についての世の中の受け止め方と
ダスティン・ホフマンの徹底した演技がもたらしたインパクトだったのでしょうか。

しかし、確かに何よりもダスティン・ホフマンの演技が話題となるこの作品ですが。
支えるトム・クルーズがあってこそ、その演技も際立つというもの。
24年前のトム・クルーズ、なかなかどうして流石です。

コミュニケートが上手く出来ない(=台詞がかみ合わない)相手との共演を通じて、
だんだんと生まれてくる複雑な胸のうちを語る。
そんな「難題」を見事にやってのけたんですから。
24年前の当時から、「ミッション・インポッシブル」はお手のものだったわけですね♪

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『タイタニック』(1997年/米)
★3/2(土) 20:00~23:16 NHK BSプレミアム 

まだまだ続くアカデミー賞関連作品。
今週の"観ずに死ねるか!シネマ"は、アカデミー11部門受賞作『タイタニック』です!
ジェームズ・キャメロン監督自身の作品『アバター』に抜かれるまでは、
世界興行収入NO.1だったこの作品。
3D上演の入場料加算を差っ引けば、実質上はいまだ頂点に位置しているのでは?
公開から早14年。
タイタニック号の舳先で両手を広げた、主人公たちの有名な姿が
ちょっとベタなギャグにも思える昨今かも知れませんが、
やっぱり素晴らしいこの映画。
僕などが語るのもおこがましいのですが、沈没覚悟で頑張ります♪
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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