観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

ジョニー・デップとティム・バートン、その黄金コンビの記念すべき第1作!


一年の計は元旦にあり。始まりって大事ですよね。

ハリウッドでも、単なる2枚目スターではない異色の存在感を示す怪優:ジョニー・デップ。
ハリウッド・コマーシャリズムと独自の世界観を見事に両立する奇才:ティム・バートン。
数々の傑作をものしてきたこの黄金コンビの始まりと言えば、
そう、名作ファンタジー映画『シザーハンズ』です。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.11】

『シザーハンズ』(1990年/米/監督:ティム・バートン)
★1/9(月) 13:00~14:46 NHK BSプレミアム

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公開から20年以上経っているのに、いまだその瑞々しさを失わない不思議な映画。
『シザーハンズ』の魅力はどこにあるのでしょう?

両手がハサミで出来ているが故に、愛する者を抱きしめれば傷つけてしまう、
孤独な人造人間エドワード=ジョニー・デップ。
見た目の恐ろしさとは裏腹の純粋な心で、高校生の女の子に恋心を抱き、
初めのうちはただの化け物だと忌み嫌っていた女の子もやがて...。

ティム・バートン一流のよじれたユーモアとペーソスで描くこのファンタジー。
僕はこれまで、その悲しい恋の「切なさ」に感動していました。
初めてこの映画を観たのは、20年以上前。
自分自身まだ20代そこそこで、恋愛感もその年齢相応のものだったからでしょう。

今回、久しぶりに再見して感じたのは、その「切なさ」よりも「儚さ」の方でした。
そして、その「儚さ」こそが、この映画をエヴァーグリーンなものにしている気がします。
「切なさ」と「儚さ」。
このふたつ、似ているようですが...?

僕は駆け出しの頃、ある大先輩ディレクターに
「ポップスっていうのは、儚くなくっちゃいけない」と教えられた事があります。
「切ない歌は幾らでも作れけれど、儚さを感じさせるのはそう簡単ではない」と。

当時は、分かったような分からないような気持ちで聞いていた、その言葉。
時が経つにつれて、僕の中でどんどん重要な意味を持つようになりました。

「切なさ」とは、ある種のどうしようもなく不可避的な状況によって生まれます。
つまり、ある種のシチュエーションによって感じる情動だと言えるかもしれません。
『シザーハンズ』のエドワードの孤独、報われない恋心などは
まさにそうしたシチュエーションのもたらす「切なさ」であり、当然この映画の主題。
若い頃の僕は、きっとこの「切なさ」に反応していたんだと思います。

一方、「儚さ」とは、その輝きが一瞬だからこそ感じられる美しさ。
様々な意味がありますが、僕はそのように言い換えることもできると思います。
花火は「切ない」のではなく「儚い」。
想像しやすいイメージだと、そういう例えも出来るかと。
不惑の年代に入った僕は、そういう部分に反応するようになったようです。

先輩が僕に伝えようとしてくれたのは、
ポップスというのは、時代々々の花火のような「儚い」輝きを放つことで
逆説的にエヴァーグリーンな命を吹き込むことができる音楽。
そういう事だったのかなあ、と僕は今思っています。

映画に戻ると、『シザーハンズ』における「切なさ」の象徴は
エドワードのハサミの手(=シザーハンズ)に集約されています。
感受性が高く繊細な心の内とは裏腹に、一歩間違えれば凶器と化してしまう手。
愛しい人を抱きしめたくても抱きしめられないシチュエーションは
まさに「切なさ」の極地でしょう。

では「儚さ」が最も象徴的に現れたシーンはどこでしょうか?
映画は、街の造形もマンガ的なデザインと色彩で彩られ、
人物設定も敢えて類型的に。
街並や人物の人工美のようなプロダクション・デザインが、
このおとぎ話を(表現はおかしいですけれど)リアルに演出しています。

そして、その人工的な美しさの頂点が、あの<雪>のシーン。
手のひらをかざして、雪を受け止めながら踊るキム=ウィノナ・ライダー。
あの時、あの瞬間にだけ輝いた「儚さ」の美しさ。
見事な見事なシーンでした。
あの時の彼女の姿の持つ「儚さ」を知ればこそ、
エドワードは...(感涙)

この「儚い」記憶があり続ける限り。
エドワードとキムの恋物語はエヴァーグリーンなポップスになる。
2人にとっては、永遠を約束してくれる一瞬の記憶であり、
映画を観た僕たちにとっては、何度観ても甦る感動を約束してくれる「儚さ」
これが、20余年の時を経て今だ色あせない
『シザーハンズ』の魅力の秘訣だと思う次第です。

N先輩、僕の「儚さ」観、教えて頂いた事に通じていますか?

さて改めて。1年の計は元旦にあり。始まりって大事。
年の最初にこんな素敵な映画を観直したんだから、
今年の映画ライフは充実間違いなしっ!

ん?って事は、この新年1発目のコラムの出来不出来でこの1年が決まる?
...お読みいただいているみなさま、本年もどうぞ宜しくお願い致します!

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『シルバラード』(1985年/米)
★1/12(木) 13:00~15:15 NHK BSプレミアム

西部劇って、現代日本に生きる僕たちには、もしかすると一番縁遠いジャンルかも。
でもそれは、実は本場アメリカでも同様なのかも知れません。
そこに敢えて挑戦した名脚本家にして名監督、ローレンス・カスダン。
スター・ウォーズやインディ・ジョーンズの脚本家とあらば、
是非ともそのお手並み拝見しなければ、死ぬわけにはいかないのです!
脂の乗り切った頃のケヴィン・コスナー他、豪華キャスティングも見物♪
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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