観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

AKB48のドキュメント映画に、おニャン子世代が挑む!


はじめまして。
レコード会社のビクターでサプライチェーン部門のマネージャーと
シンガーソングライター:KOKIAのディレクターの二足のわらじを履いている
助川 仁(すけがわ・じん)と申します。

このコラムでは、毎週オンエアされる映画から必見の1作を
"観ずに死ねるか!シネマ"略して"観ずシネ"としてピックアップします。
音楽屋が映画コラムとは大変胡散臭い話で恐縮ですが、宜しくお願いします。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.1】

『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued』(2011年/日本/監督:寒竹ゆり)
★10月22日(土)22:00~24:00 NHK BSプレミアム 

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記念すべき第1回目のお題は、今や泣く子も黙るAKB48。
先週放映作品の中では小津安二郎監督の遺作『秋刀魚の味』も必見だったのだが
小津作品は全日本人が観る前に死んではいけない映画なので、別腹としたい。

で、AKBである。これは僕ら音楽業界人にとって、避けては通れない。
たとえ「じゃお前メンバーの名前言ってみろ」と言われて、
前田敦子、大島優子、板野友美、高橋みなみ、篠田麻里子、小嶋陽菜
...それから...それから...???...と行き詰ってしまう僕でも、避けては通れない。
しかも、このドキュメントの製作総指揮は岩井俊二じゃないか。
つまり映画好きとしても、避けては通れない。

加えて、うっかり「ヘビーローテーション」って最高のポップスじゃん?
などと思ってしまったものだから、ますます避けては通れない。
白状すると、♪あいうぉんちゅ~、がここまで刺さったのは
僕にとってジョン・レノンとマーヴィン・ゲイ以来の事件だったのである。

ということで、実はおニャン子ジャスト世代であるにも関わらず
中学の頃から洋楽にかぶれ
アイドル市場がすっぽり脱落しているこの僕が、ちゃんとコミット出来るのか?
さっそく観てみました♪「DOCUMENTARY of AKB48 to be continued」

なるほど。女性の寒竹ゆりを監督に人選したのは大きなポイントだ。
『Love Letter』『四月物語』『花とアリス』
女の子を撮ることに関しては当代随一の岩井スタイル。
それは製作総指揮の立場で関わったこの映画にも継承されているのだが
そこに寒竹氏は、同じ女性としての取材スタンスを有効に持ち込んだ。

同性相手にしか出せないような様々な表情・言葉を巧みにフィルムに収め
柔らかなルック/取材応答の1フレーズ事にせわしなく切り替わるカット割
といった岩井氏ゆずりの演出によって、不思議な奥行きを感じさせる。
ドキュメントなのに2時間、意外に飽きる事はなかった。

映画は、CD売上初動が1万枚台から100万枚にまで膨れ上がった1年を追う。
AKBと言えば"会いに行けるアイドル"。
その名に違わず、人気が急激に広がっていった2010年当時に
変わらずAKB劇場で公演を続けていたのには敬服する。

驚くべきは、あの激動の時期に於いて、彼女たちが一様に冷静だという事。

メンバー各自が自分の資質に対してとても自覚的であり
多くが、人気の上下関係・やがて終わるピーク・将来必須な卒業について言及。
峰岸みなみに至っては、
「10年後の自分はどうなっていると思うか?」という質問に対し
「28歳の自分は、間違いなくAKBにいない。」とさえ断言している。

当事者であるにも関わらず・人気が急上昇しているにも関わらず
彼女たちは一様に<AKB48>と、そこに居る<自分>を客観視する。
そして、人気が上位のメンバーになればなるほど、その傾向が強い。

いかに自分を客観的に見られるか?これは成功するアーティストの第一条件だ。
矢沢永吉はミーティング時の発言の中で「俺は」「自分は」「ヤザワは」
という3つの一人称を使い分けると言われている。
AKBの各メンバーの中にも、同質のクールな視点があったことは
僕にとって新鮮な驚きだった。
厳しい稽古の"汗"や、メンバーの絆・入れ替わり時の"涙"といった
ドキュメント映画の<定番の感動どころ>以上に
僕はこの冷静さ・客観性に打たれた。

初期のメンバーはAKBを<通過点>、夢を叶える<手段>と考えているが
最近のオーディション参加者はAKB加入が<目的>になっているそうだ。
AKB48が、このまま長く存続する、ある種のシステムになるのか?
あるいは現在の主軸のメンバーの卒業と供に収束していくのか?
鍵はこの<手段>と<目的>の違いが握っているように思う。

ところで。
AKB48は、劇場公演に始まり、総選挙、ジャンケン大会といった
画期的な発明によって大きくなっていった。
こうした多種多様な発明を支える発明中の発明とは何か?
それは、誰が命名したか知れない
"推しメン"というセグメントだと思うのである。

「好きなグループの中でも、特にこの人がお気に入り」
というのは、誰でも思い当たる昔から不変のファン心理。
対象者はフロントマンに限らないのも特別な事でなはい。
ただ、それを"推しメン"という明解な言葉でシステム化し
48人という極端に多いメンバー数を必然にした発想こそが発明なのだ。
そこには、ジョン派?ポール派?などという
ビートルズにおける二者択一の24倍もの思い入れが生まれる。

48人の必然性。
センターを競った前田敦子にしても大島優子にしても、
(ピンで観た時に)綺羅星の集まる芸能界において頭抜けて可愛いか否か?
という事は、"推しメン"というセグメントにおいては問題にならない。
48人の集合体に混じる事で、<相対的>に可愛く見える事が大事。

アインシュタイン博士が「速さが増すほど時間は遅く流れるよ」と発見したように。
秋元康博士は「数が増えれば誰かが可愛く見えるよ」ということを発見したのだ。

おニャン子だって、思えばこの相対性"推しメン"理論に支えられていた。
当時、僕はロックにかぶれて、全くかすりもしなかったんだけど。
だから最後に。四半世紀の時を超えて。勇気を持って。
映画を観て見つけた僕の"推しメン"を白状してみたい。

僕の"推しメン"は宮澤佐江です。

...言っちゃった。何だか「誰それ推し♪」っていう気分がちょっと味わえたぞ。

さあ、このドキュメント映画を観て、AKBのことは相当わかったはずだ。
おニャン子には乗り損ねた僕だけど、ようやく雪辱を果たしました秋元さん!
え?じゃメンバーの名前言ってみろ?

前田敦子、大島優子、板野友美、高橋みなみ、篠田麻里子、小嶋陽菜
...えっと、それから...柏木由紀、峰岸みなみ、渡辺麻友...そして宮澤佐江!
↑ほんの少し前進?

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『スターマン-愛・宇宙はるかに-』 (1984/米)
★10月25日(火)深夜1:50~4:00 フジテレビ

『ハロウィン』『ニューヨーク1997』『遊星からの物体X』の
ジョン・カーペンター監督が、うっかり?撮ってしまった
まさかのハートウォームSFファンタジー。これは観ないと死ねない!
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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Jin Bonham名義 映画ブログ【アンドロイドは映画館でポップコーンを食べるか?】
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