秋に食べたい変わり種スイーツ
2015年11月16日
2012年10月の記事を再びピックアップ!
日中はまだまだ気温が高いですが、朝晩はめっきり涼しくなって来た今日この頃。
本格的な秋到来ですね。今回は「食欲の秋」に因んで、
変わり種スイーツのお店を二軒紹介させていただきます。
まず最初に向かったのは麻布十番。
今回、取材するにあたって麻布十番という街を初めて歩いてみたのですが、
表通りを一歩外れると、そこには昔からの家並と細い路地が残る、不思議な空間でした。
そんな異界に忽然と登場したのが「麻布野菜菓子」。
9/22(土)放映の日本テレビ『メレンゲの気持ち』で
「通りの達人」こと石塚英彦さんが訪れた野菜スイーツの専門店です。
お話をうかがったのは代表の花崎さん。
花崎さんの「本職」はグラフィックデザイナー。
何年か前に野菜をメインに据えた懐石料理の店をつくる、
というプロジェクトに参加したことが野菜に目を向けるきっかけになったとのこと。
そしてこの時の経験から野菜スイーツの店のアイデアとイメージが生まれ、
是非自分自身の手で店をやってみたいという思いがふくらんで、
今年4月にこのお店を開店させたそうです。
店舗は自宅のガレージを改装したもの。こじんまりとしていて不思議に落ち着く空間です。
注意してみてないと通り過ぎてしまうかもしれませんが...。
「野菜スイーツ」というからには、まず材料の野菜へのこだわりについて伺わないといけないでしょう。
「特に有機栽培のものにこだわってはいません。」と花崎さん。
「何でもかんでも有機栽培がいいかというと、そうでもないんですよ。有機栽培のものは出来不出来の差が激しくて、なかなか必要な量を調達できないというリスクがある上、野菜が自己防衛のために皮を厚くしてしまうとか、エグミや苦みなどの味を強く持ってしまうことがあるんです。味の面から考えると有機栽培がかならずしもいいとは限らないんです。」
意外でしたが、なるほど、納得のいくお話です。
「このお店で材料に使っている野菜は、信頼のおける取引先から仕入れた、
その時々で一番『美味い』ものです。農薬の量は最低限に抑えています。」
野菜懐石のプロジェクトの発案が老舗の青果卸だったという縁もあり、
目利きの調達先を紹介してもらい最高の品質のものを集めているという
自負のうかがえる言葉でした。
この方法は実は非常に合理的です。今の流通の仕組みでは一番力を持つのは
仲卸と呼ばれる小売店や業務店にモノを卸す問屋さんなのですが、
いい品質のものは大抵力のある仲卸が先に抑えてしまうそうです。
ですから、力のある仲卸と結べば高品質のものを定量調達することが可能だというわけです。
この辺はプロジェクトを組んで多くの人々とともに仕事を進めて行く
グラフィックデザイナーとしての花崎さんのビジネスセンスの為せる業でしょうね。
大分前置きが長くなりましたが、いよいよ肝心のスイーツの試食タイムです。
まずいただいたのは黄色ミニトマトのトマトジュース。
オレンジキャロルというミニトマトの中でも一番甘味が強い品種を用いているそうです。
早速一口。「これがトマト?」と疑いたくなるような果実味と甘味が口一杯に広がります。
トマト特有の青臭さがまったくない、甘いジュースです。
カラダの奥底から力が湧いてくるような味でした。
続いてはセロリとすだちのゼリー。
実はこのセロリのゼリーが一番気になっていました。
あの、クセの塊のようなセロリがどうやったらスイーツに変身するのか?
興味津々で口に含みました。
まずはすだちの香りと酸味がたち、蜜の甘さが来て、
最後にセロリの独特の香りを感じます。
少しも奇妙な感じはせず、むしろセロリの香りがいいアクセントになって希有な味わいでした。
シャキシャキとした食感を残したセロリそのものもしっかり甘かったですよ。
「とかく、野菜を使うと、素材の味を活かした控えめな味になりがちなのですが、
スイーツと謳っているからにはしっかり甘くしたいと考えて工夫しました」と花崎さん。
お次ぎにいただいたなすと小豆のゼリーにも、しっかりその「哲学」は活かされていました。
なすが、ブドウを食べた時の様に甘いんです。
「なすという素材は油と相性がいいことからもわかる通り、いろいろな成分を含みやすいんです。反面香りが繊細なので、その香りをいかに逃がさないようにするかに苦心しました」
う〜ん、なるほど。
たった一口のゼリーにもいろんな工夫や思いが込められているんですねぇ。
「お菓子の職人さんとはお互いに納得がいくまで意見をぶつけ合いますよ。個人で鍋のレベルで作るのと、工場でそれなりの量を作るのとではやっぱり味が違って来ちゃうんです。なんとか自分の理想の味に近づけるべく、日々工場の職人さんとは議論を重ねてますよ」
と花崎さん。
「ゆくゆくは今の店だけでなく別の場所にカフェを設けて、
自分の納得のいく味のスイーツを提供したいと考えています」ともおっしゃっていました。
今ですら相当レベルの高いスイーツなのにもっと美味しくなっちゃうんですか?
期待せざるをえませんよ!一日も早くカフェを出店してくださいね。
二軒目は浅草橋。9/22(土)フジテレビ『ぶらぶらサタデー』で有吉弘行さん一行が訪ねた
『江戸手打蕎麦處 あさだ』です。
江戸末期から続く手打蕎麦の老舗中の老舗です。
お話を伺ったのは八代目店主粕谷さん(以下若旦那)。
このお店の変わり種スイーツは「そばアイスクリーム」と「そば茶のプリン」です。
何故、老舗のおそば屋さんがスイーツを?という疑問をぶつけてみました。
「私は大学を卒業した後、8年ほど外のお店に修行に出ました。その内7年間はそばの専門店ではなく和食のお店で修行をしたんです。基本はあくまでもそば屋なんですが、そばだけに囚われずに、いろいろな料理に挑戦して、お客さんに喜んでいただける店を目指そうと考えて、和食の基礎から学ぶためです。」
修行されていたのは和食の名店「青柳」。ここで修行した料理人さんたちの多くが、
独立後ミシュランの三ツ星を獲得するなどの「実績」があります。
この青柳で甘味を任され、真剣に取り組んだことが
二つのスイーツの開発の「基盤」になったそうです。
ここで二つのスイーツをいただくことになりました。
まずはそば茶のプリンです。
トッピングは煮小豆、栗の蜜煮、乾燥いちじくです。
さらにその上から黒蜜をかけ、炒ったそばの実を散らしてあります。
「トッピングは季節季節によって変えています。今は栗の最盛期なので栗を使いました。」
と若旦那。
一度焼き色を付けた栗を糖蜜でじっくりと煮込んで仕上げた手間のかかる一品です。
「煮小豆も自家製です。十勝産の大納言小豆を使い、土鍋と銅鍋で焚いて仕上げます。土鍋を使うことで小豆にじっくりと火が通って柔らかく仕上がりますし、銅鍋で仕上げると、自然ないい色が出るんです。」
さすが、一流店のノウハウを完全にご自分のものとされていますね。
一品ずつそれぞれ独立したスイーツとして提供してもおかしくない品々を、
無造作に、惜しげもなくトッピングに使うという演出が憎い。
プリンは生クリームの使用量を極力抑えてあり、つるんとした食感です。
口に含むとまずそば茶の香ばしさが広がり、
次に黒密の甘味がジワジワとしみ出してきます。
プリンそのものにはさほど甘味を付けていないので、
煮小豆の甘味も、栗の蜜煮の甘味もいちじくの甘味もしっかりと味わうことが出来ました。
食べ方によって、それぞれの食材の甘味を単独で味わうことも出来るし、
複数の食材をミックスした甘味を味わうことも出来ます。
そしてそば茶の香りをしっかりと封じ込めたプリンが全体の味を引き締めています。
上に乗っているネタが如何に美味くても、そば本体が美味くなければ
その一杯は台無しになってしまうのと同じこと。
「基本はそば」という思想がみごとに貫かれています。
お次はそばアイスクリーム。
自家製煮小豆、乾燥いちじくに加え、
こちらには洋梨のワインコンポートがトッピングされています。
このコンポートが絶品。アイスクリームが高級なデザートに変身しました。
もちろんプリン同様、こちらもアイスクリームそのものが美味くないと
お客さんを唸らせる一皿とはなりません。
「このアイスクリームにはそば粉を炒ったものを加えてあります。生のそば粉をそのまま使うと独特のぬめりが出てしまって食感が極端に悪くなるんですよ。」
と若旦那。
食感もさることながら、炒った方が香ばしさがより増すので
トッピングとの相乗効果で美味くなるのではないでしょうか。
煮小豆の甘さとアイスクリームの香ばしさが口の中で
絶妙なハーモニーを奏でていました。
二品いただいて、
「そばをいただいた後にこのスイーツを食べるとちょうど一食として完結した感じになります。
それも非常に満足度の高い食事になると思います」
と感想をお話したところ
「まさに、それが狙いなんです。この店はそば屋ですから、
あくまでもそばを中心に据えて、そしてその脇を和の料理で固め、
最後にデザートまで召し上がっていただいて満足していただく、ということが理想ですね」
とのお答えでした。
う〜ん、そばと一緒にトータルの食事として一度味わってみたい!!
なお、お店でレギュラー商品として提供しているのは前述の二品と
そばぜんざいの計三品ですが、コース料理(要予約)を注文すると、
その時々の素材を活かした若旦那特製のスイーツが味わえるそうです。
スイーツだけではなく、是非、そば、料理をすべてを味わっていただきたいお店でした。
変わり種スイーツというと、とかく「話のタネ」に終わってしまいがちですが、
今回お邪魔したお店は、素材こそ珍しいとはいえ、
本当に美味しいモノを提供しているお店でした。是非一度味わってみてください。
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今回おじゃましたお店
「麻布野菜菓子(あざぶやさいがし)」
〒106-0047 東京都港区南麻布1-13-4
Tel. / Fax. 03-5439-6499
Mail こちらからお問い合わせください
営業時間 11:00~19:00
定休日 毎週火曜日
HP http://www.azabuyasaigashi.com/system/
「江戸蕎麦手打處 あさだ」
〒111-0053 東京都台東区浅草橋2-29-11
TEL 03-3851-5412
Mail こちらからお問い合わせください
営業時間
平日
11:30~14:30
17:30~22:00(L.O.21:00)
土曜
11:30~14:30
17:30~21:00(L.O.20:00)
定休日 日曜、祝日
HP http://www.asada-soba.co.jp/
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取材:江良 与一
コラムニスト:ニュース/取材編集者