一人広報の達人イデルミのコラム

希望の翼 ~100軒以上に修理を断られた震災ピアノの再生物語~


2006年9月にデビューしたシンガー・ソングライター、
Metis(メティス)さん(以下、敬称略)が作詞・作曲し、唄っている曲「人間失格」。
太宰治の小説「人間失格」と、2010年初めに出逢ったアーティストに
インスパイア(=感化・示唆)され、2010年12月に完成。
その後、2011年3月2日にリリースされました。

この「人間失格」がリリースされた9日後、3月11日、東日本大震災発生。
翌日3月12日、岡山でのライブを予定していた彼女は、
悩みに悩んだあげく、予定通りライブを実施。

その翌日、3月13日は福岡でライブをおこない、
両方のライブ会場に急遽設置した募金箱や、
自身のイラスト販売を通して、
来場者の方々から震災支援のための寄付金を集めました。

彼女の支援はそれだけで終わりません。
被災者支援のため被災地へ足を運ぶ中、大震災からちょうど1ヶ月後の4月11日、
宮城県七ヶ浜町で、がれき(瓦礫)の中にポツンとたたずむ
グランドピアノに目を奪われます。
帰り道でも同じピアノを目にした彼女には、
このピアノが「もっと音を奏でたい」と訴えているように思えてなりませんでした。

震災で被災した、このピアノを、なんとか蘇らせたい。
そんな思いで彼女は修理してくれるところを探しはじめます。
次々と電話をしますが、ここもだめ、あそこもだめ、と
100軒以上から断られてしまいます。
それでも彼女はあきらめずに探し続け、
ようやく、引き受けてくれるという横浜の修理工場に出逢えたのです。

それまでの100軒以上にとっては、ただの「粗大ゴミ」でしかなく、
あきらめた方がよいと判断された被災ピアノですが、
引き受けてくれた修理工場の方々には、そうは映らなかったのです。

それは、3.11の津波で家を失った誰かが大切にしてきたピアノであり、
その誰かの人生の、うれしい時や悲しい時、つらい時をともに過ごし、
その時々に音を奏でてきたはずのピアノ、
すなわち、「誰かの人生そのもの」だったのでしょう。

被災したピアノは、Metis自身の全国ツアーの売上金を使って修理され、
新しく生まれ変わり、ついに再び音を奏ではじめます。
もちろん、傷はあちこちについたままだけれど、
それは、このピアノが「生きた証(あかし)」、
「頑張って、這い上がって生きているんだぞという証(あかし)」なのだと、彼女は言います。
(Metis Official Website「メイキングムービー」より)

「人間失格」は、彼女が自分の中の「闇」を見つめ、
向かいあいながらつくった、大切な歌。
3.11の震災をきっかけに、この歌に込められたメッセージを、
もう少し世の中に伝えたい、という想いが彼女の中に沸き上がりました。

今だからこそ、自分の命、愛する人、自分と向き合える時間を、
この楽曲を通して皆に考えて欲しい。
そういう想いで、形を変えて、再度リリースすることを決めます。

「再生」されたピアノを使い、被災地の子どもたちとともに唄って録音し、
2011年11月2日、サブタイトルをつけた
「人間失格  ~生きる事は素晴らしいのです~」として「再生」(再リリース)されます。

3.11の震災後に「再生」したMetisの歌から伝わってくるのは、
どんなにつらくても、「それでも生きる」「死んではいけない」というメッセージです。

3.11、くしくも自分の誕生日に起こった東日本大震災をきっかけに、
私はボランティアとして被災地への支援活動をはじめました。
勤務先のボランティア休暇をすべて使い果たすほど、
石巻へ支援物資を運ぶ作業を手伝っても、
まだ何か、やり遂げていないような、
不完全燃焼のままくすぶるような思いがしてなりませんでした。

自分の内なる声に従うことをベストな生き方だと信じる私は、
あと先を考えず、外資系食品企業の広報室長を辞めました。
社会的な地位と安定した収入を捨てることは、確かに勇気がいりました。
まわりからも反対されました。

でも、一生に一度、起こるか起こらないかの危機を目の当たりにし、
「被災地へ行きたい」「困っている方々の助けになりたい」という想いを
ごまかすことができなかったのです。

その結果、辞める決心をした時には予想もしなかったさまざまな人と出逢い、
幅広い分野で、ともに仕事をすることになりました。
はからずも、3.11の震災を通して、私自身が、より自分らしい
自分への「再生」を果たしたことになります。

がれきの中からよみがえったピアノ、いったんはゴミになりかけ、
大量のがれきとともに捨てられる運命にあったピアノが、
一人の歌手の目にとまったことで、紆余曲折を経て修復され、
再び音を奏でられるようになり、その歌手のレコーディングに使われるようになる。

被災したピアノは、自分に与えられた命を吹き返して最大限に活かし、
人を励ます存在にまで「再生」を果たしたことになります。

3.11の震災を引きがねに起こった、被災したピアノの「再生」や、
「人間失格」の歌そのものの「再生」、そして私自身の「再生」。

私には、どれも偶然であるとは思えないのです。
3.11を境にして、良くも悪くも世界は変わった、変わらざるを得なかったのだと思います。
ちょうど、9.11を境にして世界が変わったのと同じように。

3.11に起こったこと、亡くなった方々のこと、
世界中から日本へ、多くの人や物や暖かい心の支援が寄せられたこと。
その支援に対して、被災者の方々が感謝の気持ちを世界に向けて発信していること。

これらのことは、私たちそれぞれの長い人生の中では、
ほんのわずかな期間の出来事かもしれません。

それでも、これら3.11に関わることは、私たちが、この先、10年、20年...と、
親から子どもたちへ、子どもたちから孫たちへと、
次世代へ語り継いでいくべきこと、忘れてはならないことだと思います。

そして、いまだ行方不明の方々とそのまわりの方たち、
自分たちの意思に反して避難を余儀なくされている方たち。
この方たちにとって、3.11は過去ではありません。現在進行形です。
まだ、ちっとも終わっていない。いつまで続くのかもわからない。

2011年が終わっても、新しい年を迎えても、
時が3.11のままで止まっている人がたくさんいます。
今なお、この厳しい現実の中で生きている人たちを、決して忘れてはなりません。
皆で支えなければなりません。

今を生きる私たち一人ひとりが、それぞれの「再生」を果たすことができますように。
そして、日本の国そのものも、苦しんでいる被災者の方々が、
心穏やかに日常を送ることができる場所へと生まれ変われますように。

日本の良さを最大限に活かした誇れる国として、「再生」を果たすことができますように。
それは、日本を支援してくださった世界中の方々に対して「ありがとう」という
感謝の意を示すことであり、亡くなった方々の分まで、
遺された我々が精一杯生きるということでもあります。

祈りを込めて...。

人間失格 (7分55秒。歌は2011年3月2日にリリースされたバージョン)

3.11 世界からの激励  Stars Unite for Japan Part 2(3分59秒)

3.11ある先生の物語~世界中の支援に被災者からの「ありがとう」(8分8秒)



Metis(メティス)プロフィール(Metis Official Websaiteより)

よみがえったピアノの伴奏で唄うMetisの
「人間失格 ~生きる事は素晴らしいのです~」(1分45秒)


希望の翼 GINZA ILLUMINATION
(気仙沼と陸前高田の小学生たちが描いた
「みんなが笑顔になる未来の絵」を展示。
2011年11月25日~12月25日まで)
http://ginza-kibou.jp/
コラムニスト:井出 留美

office 3.11代表

井出留美オフィシャルブログ http://iderumi.com/
Twitter of Dr. Rumi Ide, Ph.D. : http://twitter.com/rumiide
office 3.11 http://www.office311.jp/

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