下駄屋四代目ちゃきちゃき日記

日本の語り芸


弊店ウェブサイトで連載している「和装人インタビュー」の記念すべき50人目は、
浪曲師の玉川奈々福さんにご登場いただきました。

あさくさ辻屋本店<和装人インタビュー>
http://www.getaya.jp/int_index.html

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インタビューの中で、奈々福さんが「日本の語り芸」について
次のように話された言葉が強く印象に残りました。

「『源平盛衰記』とか『平家物語』という文学があり、平家琵琶で歌われ、
それがお能になり、義太夫になり。
自分達の歴史を、物語に読み替え、語り替えてゆく...語り芸の種類が多くて、
いっぱい物語を持っているのは、ものすごく豊かなこと。」


平家琵琶に始まり、中世に謡曲が生まれ、江戸時代には浄瑠璃が発展し、
そして明治時代になると浪曲が一世を風靡。
日本人は、唄いながら物語を語る「語り芸」の歴史を脈々と受け継いできている。


私は自分が浪曲を聴くようになるとは思ってもみませんでした。
実家には若いころ父が集めた志ん生のレコードがたくさんあったりして、
落語はわりと身近だったのですが、浪曲を聴く人は周りにまったくおりませんでした。

7年程前、奈々福さんが浅草・木馬亭で、金魚絵師の深堀隆介さんとのコラボイベント
「唸る浪曲 泳ぐ金魚 金魚亭」を開催されたときに、たまたま聴きに行ったのが、
浪曲を聴くようになったきっかけ。
(深堀さんといえば、今や世界的に有名な金魚アーティストで、奈々福さんの
テーブル掛けは、深堀さん製作の金魚の絵です。)

初めて生で体験した浪曲の節回しに感情を揺さぶられ、
三味線の音色に陶然としたのです。
浪曲なんて古臭いという思い込みが、ひっくり返りました。

「日本浪曲協会」オフィシャルサイト
http://www.rokyokukyokai.org/


先日、文楽に行ってきました。
歌舞伎を観に行く、といいますが、文楽は「聴きに行く」というのだそうです。
三人で操る人形の演技は、もちろん素晴らしいものですが、
文楽は太夫の語りと太棹の三味線の音色を、耳で味わう芸なんですね。

昨年は大阪市の補助金問題で注目を集めましたが、
良い方向に一段落して、現在は大阪公演もチケットが取れないほど大入りだとか。
(東京公演はそもそも入手困難のようです)

舞台鑑賞の前に、初心者向けのレクチャーがありました。
あら筋と見どころの解説、さらに三業(太夫・三味線・人形遣い)の方が、
それぞれ舞台に上がる前に、お話してくださいました。

歌舞伎の場合、役者がそれぞれの役をこなしますが、
文楽では太夫が何役もの人物を語り分けます。
そして、三味線が太夫をリードし、あるいは寄り添います。
その関係は「浄瑠璃は針、三味線は糸」というそうです。


浪曲でも「三味線と節は、探り合いながら饒舌に会話をしている」と
奈々福さんがおっしゃっていましたが、語りと三味線の作り上げる世界に
観客がぐいぐい引き込まれていき、知らず知らず感動してしまうのが、
語り芸の凄さ。


語り芸に限らず日本の伝統芸能には、いわゆる定番のお話がありますね。
歌舞伎や文楽の「忠臣蔵」や「義経千本桜」、浪曲や講談の「次郎長伝」や
「国定忠治」、落語の「芝浜」や「時そば」など、観客は物語の筋や登場人物を
すでに知っている。
その上で、役者や語り手、演者による違いを楽しむ。

その作品が生まれた時は、もちろん新作として楽しんだのでしょうけれど、
「古典」がこれほどバラエティ豊かに、身近にあるのは、
日本の独特な文化なのではないでしょうか。
「歴史の長い国は、自分たちの物語が豊富にあることを、誇るべきと思う」
という奈々福さんの言葉につながるのでしょう。


公益財団法人 文楽協会 オフィシャルサイト
http://www.bunraku.or.jp/
コラムニスト:富田 里枝

浅草の老舗和装履物 辻屋本店

あさくさ辻屋本店「下駄屋.jp
富田里枝twitterアカウント

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