観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

どっちを先に観るべきか?『12人の優しい日本人』&『十二人の怒れる男』


三谷幸喜関連映画の中でも、特に評価の高い『12人の優しい日本人』
映画通ならニヤッとするタイトルと、裁判員制度を先取りしたテーマ。
パクリ?オマージュ?有罪?無罪?あなたはどっちの評決?

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.45】

『12人の優しい日本人』(1991年/日/監督:中原 俊)
★3/17(日) 15:00~17:05 NHK BSプレミアム

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2009年に裁判員制度が施行される19年前。
三谷幸喜が、主宰する東京サンシャインボーイズのために書き下ろした舞台劇。
それを『櫻の園』の中原俊監督が翌1991年に映画化したのが、本作です。

日本には存在しなかった架空の陪審員制度。
復縁を迫る元夫の傷害致死罪容疑で裁判にかけられた被告の女性を、
個室に集められた老若男女12人の陪審員たちがどう評決するのか?

裁判員制度が始まって早4年。今の視点から観ても興味深い題材ですが、
公開当時はことさら新鮮だったことでしょう。

一幕ものの舞台を、シンプルに映画化したこの作品。
裁判そのものは一切描かれません。
観る者は、陪審員たちの議論、すなわち会話によってのみ
事件のあらましを知り、評決の行方に目を凝らすことになるのです。

元ネタは、名匠シドニー・ルメットの監督デビュー作であり、
今でも米映画ベスト100に必ずランキングされる名作中の名作、
『12人の怒れる男』。

係争社会のアメリカでは、裁判が題材の映画も数多く作られています。
その中でも、裁判そのものではなく陪審員の議論のみで展開するという
異色かつスリリングなアイディアを持った歴史的な傑作。
三谷幸喜は、大胆にもそこに挑んだわけですね。

さてここで問題になるのは、
その元ネタが本作の鑑賞にどれほどの影響を持つのか?ということ。

どちらかしか観ないのであれば、
いずれも「あ~面白かった♪」となることは間違いありません。

では、両方見る場合はどうでしょう?

その①『怒れる男』から観る場合
...『怒れる男』で衝撃→『優しい日本人』で、ふふ~んとほくそ笑む。

その②『優しい日本人』から見る場合
...『優しい日本人』を堪能→『怒れる男』で、うお~まんま元ネタや!でも面白い!

同じ面白映画を観るにも、順番が違うだけで全く違います。
どっちがいいのかって?
それが難しいんですよねえ...どっちもどっちで捨てがたいけど、
モニター2台並べて一緒に観るわけにはいかないし。

僕は①のパターンだったわけですが、元ネタは割れてても、
十分『優しい男』は面白かったです。
というのは、スタッフの元ネタに対する愛を感じたから。

音楽もそうなんですけど、ここが大事。要は愛があるかないか。
愛のある模倣はパクリとはいいません。
そこには、何とか自らのものにしたい、という愛しくも見果てぬ夢があるのです。

中途半端に表面だけ真似ても批判されるだけ。
それを覚悟で模倣するには、対象への溢れんばかりの愛がなければならないし、
その愛を感じてこそ、観る者・聴く者は感動するのです。
そっか。コロッケさんのモノマネは、だから最高なんだね~♪

...道がそれました(^^;)モノマネの話ではなく映画の話に戻します。

ということで、結論からいうと、初見のインパクトは損ないこそすれ、
①のパターンの方が、色々な意味で面白いかも。
コロッケさんのモノマネは、対象を知らなくても面白いけど、
やっぱり知っていたほうが破壊力がありますし。

なので、どちらか一方を観たことがある方は、是非もう一方を。
どちらも未見の方は、是非『怒れる男』→『優しい日本人』の順番で
お楽しみいただき、若き豊川悦司さんのファッションにヤラれちゃって下さい。

最後に、タイトル解析をひとつ。

『十二人の怒れる男』VS『12人の優しい日本人』
「怒れる」と「優しい」の差異は何か?

『怒れる男』は、陪審員全員、容疑者が「有罪」とするところから始まります。
『優しい日本人』は、陪審員全員、容疑者が「無罪」とするところから始まります。

つまり、前者では陪審員全員が「怒れる」状態ですが
後者では「優しい」んですね。

このスタートラインが、実に三谷幸喜一流のツイスト。

ド真ん中の直球勝負で「空振り三振」狙いの元ネタに対し、
ひねって始まる三谷脚本は、
変化球らしい曲がり方でキャッチャーのミットに納まります。

「あらボールかと思ったら曲がって入ってストライクになっちゃった」
そんな「見逃し三振」のような終幕も、とても「らしい」この映画。
あなたの感想は、有罪?それとも無罪?

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『めまい』(1958年/米)
★04/03(水) 13:00~15:10 NHK BSプレミアム

個人的に最も敬愛する映画監督、それがアルフレッド・ヒッチコックです。
それまでは普通に映画を観ていた僕が、
意識的に、そしてむさぼるように映画を観るようになったきっかけ。
それが、ヒッチコックにフランソワ・トリュフォーがインタビューした
『ヒッチコック/トリュフォー 映画術』という歴史的名著でした。
学生時代にこの本を教えてくれた学友に、ただ感謝々々です。

その映画史に残る巨匠の円熟期の大傑作『めまい』が、遂にコラムに登場!
ヒッチコック作品を観ることは、すなわち映画というものそれ自体を観ること。
その艶かしいほどの体験は、正に"観ずに死ねるか!"
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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