観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

ザ・ファーザー・オブ・アメリカ、クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』


11月23日公開の映画『人生の特等席』でスクリーンに帰ってきたクリント・イーストウッド!
俳優復帰を決心したのも、彼の下で助監督やプロデューサーを務め、
その映画作りをきっちり学んだ愛弟子:ロバート・ロレンツの監督作だから、
という筋の通し方は、イーストウッド翁、さすがですなあ。

そんな彼が4年前に監督し、最後に主演していたのがこの『グラン・トリノ』。
自らの主演によって、筋が通りまくりの人生哲学を思いっきり込めた映画です。
人生の大先輩の言葉に耳をかたむけるように、じっくりとご堪能下さい。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.40】

『グラン・トリノ』(2008年/米/監督:クリント・イーストウッド)
★9/16(日) 21:00~22:58 NHK BSプレミアム

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理想の父親。そう聞いて、みなさんはどんな父親像を思い浮かべるでしょう?

ちなみに、ORICON STYLEが10代・20代の男女を対象にアンケート調査した
【2011年 若者に聞いた理想の父親ランキング TOP10】の結果は下記のとおり。

1位:つるの剛士
2位:関根勤
3位:所ジョージ
4位:反町隆史
5位:明石家さんま
6位:児玉清
7位:山口智充
8位:舘ひろし
9位:高田純次
10位:三村マサカズ

これを見ると、イクメンだったり、話が面白そうだったり、
どちらかというと"友達のようなお父さん"タイプが人気のようです。
友達感覚ではないであろう児玉清さんも、知的で温厚なイメージですから、
いわゆる"頑固親父"タイプの人気はいまひとつのようですね。
(硬派の反町隆史さんや舘ひろしさんも、頑固という感じではないですし)

そんなあまり人気のない(^^;)、頑固で偏屈な父親を演じさせたら
まず右に出る者はいないのが、ご存知クリント・イーストウッド。
現在82歳の彼が、今のところ最後の監督・主演兼任作として撮ったのが
2008年の『グラン・トリノ』です。

米国産業の名刺ともいえるフォード社で50年勤め上げ、
2人の立派な息子を育てたご隠居、コワルスキー。
持ち前の頑固さに、妻を亡くした悲しみと朝鮮戦争のトラウマが重なり、
息子夫婦や孫たちからも疎んじられるようになってしまっています。
しかし、同情や哀れみなんかクソくらえ。
台頭する日本車も大量に移民してくる東洋人種もクソくらえ。
「Son of a bitch ...」が口癖で、
老いた飼い犬を従えて日長一日ポーチで缶ビールを空け、芝生を刈り、
近所の美容室で、悪ダチと口汚い冗談を言い合って暮らす毎日。

つまり、はっきり言って、とっつきにくく憎ったらしい爺さんです。

でも、実は言っていることは乱暴で口汚いけど筋が通っているし、
機械工作なんかはめっぽう強くで、何でも自分で直せちゃう。

つまり、はっきり言って、とっつきにくく憎ったらしいけど、
悔しいかな隙のない爺さんです。Orz

永らく本人公認の専任として吹替えを務めた故・山田康雄さんの、
あの軽妙な声の印象が強いのですが、
クリント・イーストウッドの地声は、低くしゃがれた、いぶし銀のような声。
この声で、あの190センチ以上の上背から、
「Son of a bitch ...」ってドスを効かせて唸られた日にゃアナタ、誰でもビビリますわな(^^;)

しかし、頑固一徹で人付き合いは苦手でも、人の性根を見る目には確かなものがある。
厄介者だけれど、日本で人気の"友達のようなお父さん"とは真逆の父親像なんですね。

そしてこの父親像こそ、開拓者の国=アメリカの伝統的な父権性を表わすのではないか?と。

ザ・ファーザー・オブ・アメリカ。

それが、老境に達して以降のイーストウッドに対する僕のイメージです。
現代アメリカでも、日本同様、こうした父権性は減りつつあるのかも知れません。
だからこそ、『グラン・トリノ』のような映画が生まれ、支持される。
そこには、古き良きアメリカへの郷愁のような眼差しが感じられるのです。

さて、映画の基本設計はここまで。
それ以降の展開が、正にイーストウッドの豪腕の証です。
単に古き良きアメリカへの郷愁だけなら、ただの懐古趣味的なヒューマンドラマになりますが、
『グラン・トリノ』はそうじゃありません。そこが大きな見所になっています。

母国だとか人種だとか異文化だとか、
そうした枠組みを乗り越えて、人の心と心が正しく結び合う国。
それが今も昔も変わらない、本当のアメリカだろう?

そんな、「正義」と「誇り」の二本足でがっちり地に足をつけたメッセージ。
隣に住む中国系モン族一家の、多感な姉弟との交流を通じて、
イーストウッドは、そう僕らに語りかけてくるようです。

映画全編に通じるユーモアと暖かい目線は、それまでの諸作にはなかったテイストで、
老境に達した余裕を感じさせるものですし、
そこに揺るぎない「正義」と「誇り」をビシッと一本通してぴしゃりとシメるところは、
惚れ惚れするような「刀の納め方」ならぬ「銃の納め方」。
そのあたりを存分に味わいたい映画です。

最後に。
映画に登場する新米牧師くんは、それはそれは散々な扱いで^^;
主人公からけちょんけちょんにしされたりするので気づきにくいのですが、
この映画の背景には、キリスト教的な思想が色濃く流れていると感じます。

罪びとたる人間。その贖罪のために、何かに殉ずるということ。

キリスト教における「魂の救済」の概念は、
イーストウッド演じるコワルスキーの、最後のポーズに明確に象徴されています。
再見される方は、そのあたりにも注目してみて下さい。

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『たそがれ清兵衛』(2002年/日)
★10/1(月) 19:30~21:40 NHK BSプレミアム

『グラン・トリノ』は古き良きアメリカの父権性を描きましたが、
名匠:山田洋次監督のこの代表作では、古き良き...
っていうより遥かお侍さんの時代の男女の生き様が、端正な筆致で描かれています。
正に、これ以上はないというくらいの正統派日本映画。
これを観ずには、たとえ清兵衛に斬られようとも死ねません!
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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