観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

下品がサマになるのも珍しい名(迷?)匠:ブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』


映画を監督で観る、という方も多いかと思います。
数ある人気監督の中でも、ブライアン・デ・パルマはちょっと別腹?
映画界のB級グルメ・グランプリがあったら、1等賞間違いなし。
そんなデ・パルマの代表作が『殺しのドレス(原題:Dressed To Kill)』です。
いざ、その禁断の味わいをご紹介いたしましょう。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.36】

『殺しのドレス』(1980年/米/監督:ブライアン・デ・パルマ)
★8/6(月) 13:25~15:25 テレビ東京

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ブライアン・デ・パルマという人は器用な監督で、
『キャリー』のようなホラー、『アンタッチャブル』のようなマフィアもの、
『ミッション・トゥ・マーズ』のようなSF、
そして『ミッション・インポッシブル』のようなアクションまで、
実に幅広い作品を撮っています。

普通、こうした多彩なタイプが撮れる監督というのは
良くも悪くも「器用貧乏」なところがあるもの。
ところがデ・パルマの場合は、どの映画も何故か記名性が高い。
デ・パルマ印がばーん!と押されているのです。

それはそれで、映画作家としてはとっても重要なことです。
スピルバーグなんかも、ありとあらゆる題材を映画にしますが、
やはりどの作品でも、ばっちりスピルバーグ印がついている。
(しかもあの人の場合、製作者の立場の作品でも印がついているのがエライ)

デ・パルマが僕にとって面白いのは、
スピルバーグ印が非常に優等生というか、オーソドックスなのに対し
(この、"オーソドックスなのに記名性が高い"というのが
スピルバーグの特異な才能だと思うのですが、その話はまた別のところで)
デ・パルマ印は、どこか歪んでいるところ。
はっきり言ってしまうと、下品。

ところが、この下品さ加減が
「食べ物は腐る直前が一番うまい」という話にも似て、実に妙味なのです。
僕のようなファンは、この癖のある味にやみつきになってしまい、
傑作駄作を問わず観てしまうという、いわば禁断の果実。
それがブライアン・デ・パルマ映画なのだと思います。

で、この味わいが一番発揮される題材がエログロなんですね。
だからデ・パルマ作品はホラーやサスペンス(それもB級な香りのするもの)が一番面白い。
あちこちに瑕疵(かし)があろうと、
オチがトンデモないところに着地しようと関係なし。
逆に「何じゃそりゃ~?」となればなるほど、
その独特の下品な味わいが生きてくる、という不思議な映画作家なのです。

この「下品さ」は、「わざとらしさ」と言い換えることが出来るかも知れません。
わざとらしくぐるぐると回転するカメラワーク。
わざとらしく時間を引き延ばすスローモーション。
わざとらしくひっぱるワンカット撮影。
このケレン味。いや~たまりません。

個人的には、この下品さ・わざとらしさが「虚しさ」まで昇華し、
何ともいえない哀しみにさえ到達した『ミッドナイト・クロス』(81年)こそ、
デ・パルマの最高傑作だと思うのですが、
その前年に作られた『殺しのドレス』も負けず劣らず、
名(迷?)匠の名を決定的なものにした代表作です。

映画は、のっけから品の悪さが炸裂。
初見時に中学生だった僕は「見てはいけないオトナの世界」を見てしまった気がして、
興味と罪悪感がないまぜになった複雑な気分で観ていた記憶があります。

ミステリ・サスペンスなのでネタバレは控えますが、
デ・パルマが敬愛するヒッチコックの傑作『めまい』をまんまパクって
下品な味付けをしちゃったような美術館のシーンから、
『サイコ』いただきました♪の事件シーン、真相、そしてラストのラストまで。
その下品さは最初から最後まで貫かれ、まるで熟して腐る寸前の淫靡な美しさ。
それはまるで、食通が行き過ぎてゲテモノまでトライするかのごとし。
そういう意味ではデ・パルマの真髄はちょっと通というか、スキモノ向けかもしれません。

主役の一人で、当時デ・パルマの奥方でもあったナンシー・アレン。
彼女はこの良い意味での下品さを体現する存在感を放っています。
彼女は『キャリー』にも『ミッドナイト・クロス』にも出演し、
重要な役どころをこなしていますが、
思えばこの頃が公私ともに一番充実していたのかもしれません。
この『殺しのドレス』で禁断の果実の味が気に入った方は是非、
他のデ・パルマ作品も味わって観て下さい。
一方、いまいちお好みでなかった方。それはそれで何ひとつおかしなところはありません。
と言うより、むしろ真っ当で健全だと思いますので、どうぞご安心下さい。

さて、この映画の主軸は犯人探しなので、ネタをひとつ。
観客は事件解決のはるか以前、実は真犯人を映画の途中で目撃しています。
それはどこでしょう?
それと、真相のヒントは既に原題に表されています。
(邦題は上手にはぐらかしたタイトルになっていますが、
英語圏の人はネタバレにならないのかなあ?)
1回観終わった後で、ちょっと巻き戻して探してみるのも面白いですよ♪

(おしまい)

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【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『タンポポ』(1985年/日)
★8/21(火) 21:00~23:00 NHK BSプレミアム

一億総グルメブームを先取りし、「食」という日常のテーマを
見事にエンタメ映画に仕上げてしまった故・伊丹十三監督の最高傑作。
若き日の山崎努・渡辺謙のコンビも注目!
大滝秀治は...27年前も大滝秀治だ!
そんな(どんな?)食べずに...じゃなくて観ずには死ねない一品です。
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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