観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

「今どきの若いモンは」と愚痴る人が「今どきの若いモン」だった頃。


新党結成?も話題の石原慎太郎東京都知事。

「刺激がない」という
芥川賞審査員辞任発言をはじめ、何かと物議を醸し出すお方ですが、
現在、御年79歳の石原都知事にも、当然「今どき若いモン」だった頃があります。
しかも、今どきも今どき、今どきの急先鋒。
現在の都知事の顔しか知らない方々も、
56年前の、23歳(!)の石原氏がどんな風だったか、
しばし一緒にタイムスリップしてみませんか?

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.17】

『狂った果実』(1956年/日/監督:中平康)
★2/15(水) 13:00~14:27 NHK BSプレミアム 

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芥川賞審査員を辞任された石原慎太郎氏は、ご自身も芥川賞作家。
1956年に23歳の若さで受賞した『太陽の季節』で鮮烈なデビューを果たし、
戦後と決別して享楽的生活に没頭する新世代の若者たち=「太陽族」を生んだ、
いわば時代の急先鋒でした。

つまり当時の旧世代から見れば、生意気で鼻持ちならない反抗者だったわけです。

その石原氏が芥川賞受賞の同年に脚本を手掛け、
実弟・石原裕次郎が鮮烈な主役デビューを果たしたのが、この『狂った果実』。
旧世代批判を次々と口にし、
戦後の苦しい復興から抜け出して、来る日も来る日もパーティーや水上スキーなど
葉山・逗子・鎌倉を舞台に享楽的な遊びにふける若者たちを描いています。

ひときわ背が高くて、いたずらっぽい表情とやんちゃなキャラの石原裕次郎。
当時の同世代にとって、この魅力的な当時21才の若者が一躍ヒーローになったのも
うなずける、実に鮮烈な印象です。

彼が演じるのは、不良と真面目が両極端な兄弟のうちの不良の兄=夏久。
真面目で、兄とは違って女の子にオクテな弟=春次を演じるのは、津川雅彦です。
また、二人の親友を演じるのが、岡田"ファンファン大佐"真澄。

まあとにかくみなさん若い若い。
石原裕次郎の存在感はもちろんですが、何と言っても岡田真澄のカッコ良さ!
銀幕のスターはこうでなくっちゃ!と断言できる別次元の素晴らしさです。
また、津川雅彦さんも、現在の貫禄からは想像も出来ない、ひ弱な好青年役。
しかしその瞳の奥に静かに眠るギラついた感情はやがて...。

カッコよくてモテまくりの不良の兄に対する、弟の抑圧されたコンプレックス。
これがこの映画のエモーションを牽引する起爆剤になっています。

偶然出逢った一人の美女に惹かれる真面目な弟。
素性を何故か伏せながらも、純朴な弟に次第にピュアな感情を抱き始める女。
弟の恋の相手と知りながら、どこか互いに似たもの同志の部分を感じ、
背徳の罪悪感と刺激の絶ちがたい陶酔に溺れ、否応無く惹かれあう兄と女。

芥川賞作家の脚本とはいえ、何か高尚なメッセージがあるわけではありません。
むしろ、当時先端の若者風俗を切り取っただけの映画とも言えるでしょう。

しかし、だからこそかえって普遍的な愛憎劇を切り取ることが出来たとも言えるし、
そこには天才と呼ばれた監督:中平康の非凡な演出センスが大きく作用しています。
とりわけ、そのスピーディーで感覚的なカット割は
仏ヌーベルバーグの巨匠:フランソワ・トリュフォーを熱狂させ、
シネマテークに保管される日本映画の記念すべき第1号となりました。

異様なオープニングとエンディングに挟まれた、迸る才能の一瞬のきらめき。
モノクロ映画でありながら、ギラギラとした太陽光を乱反射する海に
ド派手な色彩を錯覚するような映画的エモーション。

たったの17日間で撮影され、あっという間に編集して公開されたという
(データによると、初号試写から公開まで僅か一週間足らず!マジか!?)
まさに映画の作られたスピードとリンクするかの如き87分。
伝統的な日本映画の作りをひっくり返すようなハイセンスな出来栄えは、

まるで、
それまでサラダ油と米酢しかなかった台所に
いきなりエキストラバージンのオリーブ油とバルサミコ酢が登場しちゃって
「何だコレどうやって使うの!?」みたいな。

あるいは、
スパゲッティなんて和製のナポリタンかミートソースしか食った事がなかった所に、
プッタネスカがいきなり登場しちゃって「プッタネスカ(娼婦風)って一体なんスカ?」
などと、しょーもない韻を踏んでしまうような。

そんな衝撃(どんな衝撃?)であったろう事は、
もはや「今どきの若いモン」でもなんでもなく、
「今どきの若いモンは」と愚痴るのが似合う(けど、極力言わないようにしてます^^;)
昭和42年生まれの僕にでも、十分に想像できるのです。

性表現も当時としては随分過激だったんだろうなあ。
そんな石原さんが「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の2010年の改正で
マンガやアニメの性表現に規制をかけるんですから、時代は変わるものです。

裕次郎の主役登用もも、津川雅彦の大抜擢も糸を引いたと言われる石原慎太郎氏。
現在の印象が強ければ強いほど、
「へえ~!あの石原さんにもこんな時代があったのか~!」と
きっと新鮮な驚きと共に楽しめる事でしょう。

でもなあ、今どきの若いモンは、
昔の映画なんて観ない奴が多...ハッ!( ̄◇ ̄;)

(おしまい)

*  *  *  *  *
 
【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『レインマン』(1988年/米)
★2/21(火) 22:00~24:15 NHK BSプレミアム 

トム・クルーズと言えば『ミッション・インポッシブル』シリーズ。
もはやすっかり高い所が大好き...じゃなくて、スタント無しで
ハードはアクション・シーンを演じる役者さんのイメージですが、
このアカデミー賞作品を忘れてはいけません!
自閉症患者を演じた名優:ダスティン・ホフマンとの共演で
世界中に感動の渦を巻き起こした名作ヒューマンドラマ&ロードムービーです♪
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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Jin Bonham名義 映画ブログ【アンドロイドは映画館でポップコーンを食べるか?】
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担当アーティスト:KOKIA公式サイト
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