観ずに死ねるか!~今週のシネマ選~

ジブリとは宮崎駿なのか否や?の問いに答える珠玉作『借りぐらしのアリエッティ』


『ルパン3世』のファーストTVシリーズでその魅力にとり憑かれ、
『ルパン3世 カリオストロの城』と『未来少年コナン』が決定打となった、
宮崎駿ファン第一世代の僕。

親に連れられて『カリオストロの城』を映画館に観に行った当時小5の僕も、
いつの間にか我が子をジブリ作品に連れて行く父親になっちゃって、
その子供たちも今やおっきくなっちゃって、
友達同士で映画館に行くようになっちゃった...ぐすん(涙)。

「ルパンめ、大変なものを盗んでいきおったな!」
「いいえ、あの人は何も盗んではいません。」
「いや。やつは大変なものを盗んでいきました。」
「...?」
「それは...あなたの若さです。」
「はっ! 畜生ぉ、俺の33年間を巻き戻してくれ~っ!」

ま、そんな寂しいアラフォーの銭形~クラリスごっこは放っといて。

40年以上もの間、いずれ劣らぬ傑作を生み出し続ける巨星:宮崎駿。
その宮崎駿があえて製作総指揮と脚本に留まり、
メガホンを肝入りの俊英:米林宏昌監督に預けた話題作『借りぐらしのアリエッティ』が
先週早くもテレビ初放映されました。

*  *  *  *  *

【観ずシネVol.9】

『借りぐらしのアリエッティ』(2010年/日/監督:米林宏昌)
★12/16(金) 21:00~23:04 日本テレビ

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息子である宮崎吾郎氏が監督した『ゲド戦記』と『コクリコ坂から』の2本は、
いわば歌舞伎界の世襲みたいなものなのではないか、と思っている僕。

ですから、この『借りぐらしのアリエッティ』は、
<宮崎家><高畑家>という2大本家を初めて離れたジブリ作品ではないか、と。

その映画が、一体どんな物語を紡ぐのか?僕の興味の中心はそこにありました。
大抜擢された米林宏昌監督の腕前やいかに?
そんな、ちょっと意地悪な、
「へっへっへ。俺はファースト・ルパンから観てるんだよ~」的な先入観。
はい、正直ハラに一物持っていた事を白状いたします。m(_ _)m

で、まずは結論。
『借りぐらしのアリエッティ』、とっても良かったです♪
良いの良くないのって、ここ最近のジブリ作品の中では一番良いんじゃないでしょうか!

両親が離婚し、仕事が忙しい母親にかまってもらえず、
年齢以上に大人びて成長せざるを得なかった病弱の少年:翔。
その彼が静養のために1週間だけ訪れた親戚の田舎屋敷で、
人間の目から隠れて密かに借りぐらしをしている小人の一家。

頼りになる父、心配性の母によって健やかに育てられた小人の女の子:アリエッティ。
絶対にその存在を人間に知られてはいけないのに、
アリエッティは、その姿を翔に見られてしまった!

物語の舞台は、たったひとつ。
美しい緑に囲まれた、クラシカルで品の良い西洋風のお屋敷だけです。
でも、僕らにとっては何の変哲もない<家の中>が、
アリエッティとその家族にとってはとてつもない<スペクタクルの舞台>となる設定の妙。
これが、この映画をとっても面白いものにしています。

人間サイズの尺度での、ほんの小さな一挙手一投足が、
小人サイズの尺度を持つアリエッティたちにとっては、天変地異のような動きになる。
角砂糖や雨粒や昆虫や猫だって同様。かたや小さき物が、かたや大きな物になる。

このふたつの大小の尺度を、登場人物のアクションが行き来するダイナミズム。
ストーリーとしては、実は<起・承・転・結>のうち、
<起・転・結>くらいで終わってしまう話なのに、
このダイナミズムが観る者を、正に<ジブリ的>なカタルシスへと導いてくれるのです。

そう。
屋根を駆け下り、その勢いのまま跳躍するルパン。
足の指だけで飛んでいる飛行機の翼につかまるコナン。
飛行艇の操縦桿を気合で持ち上げて、衝突寸前から絶壁を空へと駆け上るパズー。
サツキとメイを乗せて、月明かりの夜空を飛びまわるトトロ。
ジブリ作品を観るたびに、いつも僕たちを心躍らせてくれたあのシーン。

ナナメに構えて観ていた『借りぐらしのアリエッティ』の中に、
これらの<ジブリ的>なエモーションが、近年のどの作品にも増して溢れていたことに
僕は素直に感動しました。
しかも、決して宮崎駿演出のエピゴーネンではなく、
米林宏昌監督が、きちんと自分のヴィジョンでもって繊細に描き切っている。

そのヴィジョンは、動的なカタルシスだけに留まらず、
細部まで行き届いた本当に美しい美術設定にも表れています。
アニメーションとは文字通り、<動く絵>なんだということを再発見させてくれる、
見事な映画だと思います。

米ピクサー社が、制作者の作家性を問わず、
統一感のある良質なアニメを作り続けているように。
ここに来てジブリ社も、真の意味で宮崎・高畑アニメの伝統を引き継ぎながら、
新世代固有の感覚もしっかりと脈打つ、優れたアニメを作り続ける基盤が出来た。
そんなジブリの手ごたえは、観ている僕らにも十分伝わってきます。

ところで、宮崎アニメの伝統のひとつ。
それは異質なもの同士の<共生>というテーマだと思います。

『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』における、文明と自然。

『となりのトロロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』
『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』における、人間世界ともののけ・魔法の世界。
(『紅の豚』だけはちょっと異質で、だからこそ僕のフェイバリットなのですが、
 その話はまた別の機会に)

『借りぐらしのアリエッティ』の中では、
小人たちが暮らしていくための<狩り>は、同音異義語の<借り>へと変容しています。
つまり、僕たちはみんな、生きていくために他者の何かを借りている。
普段何気なく食べているものだって、誰かの命をいただいていることと同義。
そうやって共に支えあって世界は廻っている。<共生>している。

「いただきます」
動物や植物の命を「いただく」という、この言葉本来の大切な意味を、
さりげなく密やかに潜ませる。
そんな米林宏昌監督のの手腕に、正にジブリの伝統と新世代の感覚の<共生>を感じ、
とっても清々しい気持ちで観終わりました。

ジブリの新しい一歩とも言える『借りぐらしのアリエッティ』、
実に結構なものを「いただきました」。

見逃した方は、是非「借りて」観て下さい♪

(おしまい)

*  *  *  *  *

【今週の"観ずに死ねるか!シネマ"】

『34丁目の奇跡』(1994年/米)
★12/22(木) 13:25~15:25 テレビ東京

1947年に製作された同名のクリスマス・ムービーのリメイクはいかが?
倒産寸前の老舗デパートの売上を奪回する売り場のサンタ係のおじいちゃん。
しかし、それをやっかんだライバル・デパートの陰謀が忍び寄る!
果たして物語の行方やいかに?
もうすぐクリスマス♪ 観ないとサンタさんからプレゼントもらえない!?
コラムニスト:助川 仁

ビクターエンタテインメント株式会社 編成管理チーム長 兼 KOKIAディレクター

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