下駄屋四代目ちゃきちゃき日記

幸福の国、ブータンに気づかされること


私は毎週、東上野の明順寺さんの本堂で開かれるヨガ教室に通っています。
呼吸法と瞑想を取り入れたヨガで心身リラックスする、
慌ただしい日常に欠かせない時間です。
明順寺のご住職には当店ウェブサイトの連載
「第44回和装人インタビュー」にもご登場いただき、
仏教思想が世界的に注目されているというお話をうかがいました。

http://www.getaya.jp/int_index.html


先日、その明順寺で報恩講が行われました。
報恩講とは、浄土真宗の開祖である親鸞聖人のご命日を期してお勤めされる法要です。

その日は特別ゲストとして「ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか」の著者、
田中敏恵さんがブータンの国について講演をされました。

昨年、ブータンの若き国王夫妻が来日されたのは、まだ記憶に新しいと思います。
美しいお2人の真心こもった温かい言葉に、多くの日本人が胸打たれました。

中でも東日本大震災の被災地、福島県相馬市を訪れ、小学生達に述べられた言葉は
記憶にあるのではないでしょうか。
「みなさんは、龍を見たことがありますか?
龍は一人ひとりの心の中にいます。
私たちは'人格'という名の龍を持っています。
龍は'経験'を食べて成長します。
だから私たちは年をかさね、経験を積むほどその龍は強くなるのです。」

ブータンは「GNH」(国民総幸福)という政策を掲げています。
国民総生産(GNP)に表れる物質的な豊かさではなく、国民が抱く
幸福感「GNH」を増やすことを目指す、独自のユニークな理念です。

この考え方を打ち出したのは、先代の国王だそうです。
2008年の完全民主化まで、ブータンでは王政が敷かれており、
国王自らが政治の陣頭指揮をとっていました。
急激なブローバル化の中で、人口70万人ほどの小さな国がやみくもに
経済発展を追求したら、どうなるか。
行きすぎた競争社会によってもたらされる、環境破壊や公害、地方の過疎化、
伝統文化の衰退、さらに貧富の差。
私たち日本人が今、直面している問題そのものです。

田中さんは講演の最後で「ブータン国王の'心の龍を育てる'という考え方は、
浄土真宗の'他力'という教えに通じると思います」とおっしゃっていました。

ブータンはチベット仏教の信仰国で、人々の暮らしや人生観には、
仏教の教えが色濃く影響を与えています。
浄土真宗では、'他力'つまり阿弥陀様の慈悲におすがりする道を説きます。

明順寺のご住職は和装人インタビューで
「自分の予定観念や頭の中だけの判断など人間中心主義的な物の見方に、
ちょっと待ちなさい、というのが仏教なのだと思います」と話されました。

「私たち日本人は、ブータンに学ぶというより、ブータンをきっかけに、
本来私たちが持っていたもの、失ってしまったものを取り戻すことが大切。」
という田中さんの言葉には深く共感できます。

大災害の復興に苦しみ、経済は低迷、政治は混乱する今の日本。
一年の締めくくりに自分自身の幸福感について、
これから日本が進む方向についても、あらためて考える機会でありました。


田中さんは「キラ」というブータンの民族衣装を身につけていました。
(男性の民族衣装は「ゴ」)
民族衣装が生きた状態で存在している国は、世界でも数少なくなっています。
そして日本には着物という素晴らしい民族衣装があります。

着物を着て自国の伝統をアピールすることは、
民族衣装が衰退してしまった他の国から見れば、
羨ましく見えるのではないでしょうか。
ちなみに、現国王の婚礼衣装をはじめ、ブータンでは最高級の織物には、
京都の絹糸や金銀糸が使われているのだそうですよ。

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※参考文献
『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』田中敏恵著(小学館)


コラムニスト:富田 里枝

浅草の老舗和装履物 辻屋本店

あさくさ辻屋本店「下駄屋.jp
富田里枝twitterアカウント

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